第5話 思わず同情するレベルの音痴加減。
例えば、球技大会では。
「ねぇ、本当に真面目にやってる? 弾いたバレーボール、全部後ろにしか飛んでないんだけど」
球技大会実行委員の仕事の1つに、試合の審判がある。
自分の役割りを全うすべく審判席に座っていた私は、あまりの惨状に思わずそう、アイツに声を掛けてしまった。
目の前のコイツは、あまりにポンコツだ。
いつも偉そうに「もっと計画性を持て」だの「忘れるならメモとかしとけ」だのと言ってくる癖に、今や見る影もない。
(これはもしかして、私への新手の嫌がらせ……?)
なんて、一瞬思ったりもしたのだが。
「真面目にやってるわっ!! 悪かったな、球技音痴で!」
ブンッと音が立つくらいの勢いで振り返ったアイツは、半ば涙目になっていた。
悲鳴じみたその声に、その疑いはすぐに払拭された。
代わりに「マジか……」とは思ったけど。
「って、え? ちょっと待って? 球技って、もしかして他のもボール使う系の競技も全部……?」
「っ! そうだよ! どれもこんな感じだよっ!」
悲鳴に怒りの感情が混じり始めた。
「俺だって好きでこんな感じな訳じゃないんだよ!」と言ったアイツは、あまりに必死過ぎる。
必死過ぎて――。
私は思わず無言のまま肩にポンッと手を置き、同情の視線を向けた。
するとその手はすぐに、乱暴に振り払われた。
何故か恨みがましい目で睨まれたが、何で睨まれたのかは結局分からずじまいである。
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