AI vs アナログな旅人たち⑪~助っ人参上~
素早い足音の後に「ふんっ」と体幹に力を入れるような声がしたかと思うと,大きな音がした。きっと,現れたあの男が相手を突き飛ばしたのだ。
「バオウなの? どうしてここに? 助けに来てくれたの!? どうしてこの町に!?」
「質問が多い。喋っている暇があったら手伝え! 不意打ちでぶっ飛ばしたが,さすがにおれでも一人じゃきつい。もう立てるだろ。自分で立て。立って戦え!」
体が軽くなっている。見上げると,状況は一変していた。ロボットの商人は壁に打ち付けられ,ヒューゴとバオウは組み合っていた。強い。バオウもだが,ヒューゴは老いぼれと思って向かうべき相手ではない。科学の力も恐ろしいが,バオウと対等憎み合っているところから,きっと彼も身体を改造している。ヒューゴの腕は,みしみしと筋線維とは全く異なる音をたてていた。
ジャンが背後に回り,ヒューゴの脇腹に蹴りを入れた。ヒューゴは商人とは反対の方向の壁に叩きつけられた。
「助太刀助かる。君が来ないと危ないところだった。礼を言うよ。その・・・・・・」
「バオウだ。勘違いしないでほしい。おれはあんたの敵だ。いつかあんたの命を奪う。ただ,おれ以外のやつにやられると癪なんでね」
吐き捨てるようにして,目も合わせずにジャンに言った。ジャンは口元に笑みを浮かべている。
「そうか。まあとにかく,ありがとなバオウ。うちの坊ちゃんはまだ腰が抜けているみたいだから,二人でチャチャっとやっちまおうか」
「ちょっと! やれるから! 仲間外れにすんなっつーの」
足元をつつかれたと思って,目線を提げると,ミュウが足から方へと駆け上がってきた。「お前が連れて来てくれたのか。ありがとな,偉い子だ」と頭をなでると,嬉しそうに泣き声を上げた。
役者はそろった。ここからだ。
「さあ,形勢逆転だ。こっから痛い目見せてやろう」
「俺様が来たからもう大丈夫だ。坊ちゃんはネズミと寝てな」
この野郎,ちょっとは強くなったところを見せてやる。そう意気込んで剣を握る手に力を込めた。ヒューゴと商人はたいしてダメージではなかったのか,何でもないようにこちらに体を向けている。
「楽しそうなところ悪いが,わしは理想郷を作るために貴様らを排除する。覚悟せい!」
雰囲気が変わった。ただ,おそらくヒューゴも分かったうえで命を捨てる覚悟で先頭に臨んだのだろう。勝負は見えていた。
「あのじじいはおれがやる。ジャンさんは坊ちゃんとあのロボットをやってくれ」
少し迷った末,「分かった,お手並み拝見といこう」と頭を書きながらジャンはバオウに声をかけた。指導教官を相手に夢想していたバオウの姿がフラッシュバックして,思わず身震いした。
五分も経たないうちに,二つの首が地面に転がることになる。
「ソラ! ノロノロしてらんねえぞ! あの間抜け面のロボットをやるぞ」
分かってる,と短く答えて,商人に向かってジャンと共に駆け出した。商人はこちらにこちらに向かって手を突き出した。
きた! 重力で押し付ける気だ!
その決まりきった攻撃を見抜いたジャンは,ロボットの足もとへ薙ぎ払うように武器を振るった。商人は素早い身のこなしを見せ,中へ浮かんでかわした。
ジャンが笑った。目で「やれ」と合図を送っている。
分かってるよ,と呟いて剣を水平にした。最大のチャンス。二人がかりでやれば,ジャンならいくらでも隙をついて仕留めれただろうし,自分が好き勝手している間にロボットに勝負を決める一打を打てたはずだ。でも,あえて相手に容易にかわせる一手を放ち,確実に仕留める好機を自分の為に作り出してくれた。この期待に応えないと・・・・・・! 一点集中,突きの構え。これであいつをくし刺しにして終わらせる。
右手で剣を構え,左手を剣と柄に添えて支えにし,そのまま肩をぶつけるようにして全体重を乗せた。剣が金属に深く入り込む感触が伝わってくる。うらっ,と体幹に力を込めるようにして全身全霊をかけて押し込んだ。そのまま壁際まで力を込め,うちっぱなしのコンクリートもろとも突き刺した。
「終わった。やったよ,ジャン」そう呟いてジャンの方を振り返り,ゆっくりと歩いた。今日だけで何回も死にかけた。気を抜けば,肩の力とともに腰まで抜けそうだった。
鼻頭にしわを寄せて微笑んでいるジャンの顔が急に引きつった。それと同時に「情けないねえ」という聞きなれた無機質な声が耳元でした。
とっさに身体を守る姿勢を作った,が,なにも怒らない。恐る恐る前方を見ると,からんという音共に商人の首が落とされた。「最後,気を抜いたな」とジャンが商人の頭を蹴っ飛ばし,さらに体に剣を突き立てた。
その横に,白髪の頭が投げ捨てられた。その頭は,ヒューゴの物だった。ギョッとして首が飛んできた方を見ると,バオウがヒューゴの身体をわしづかみしている。腰の方のチューブを引っこ抜くと,そのままヒューゴの身体が脱力したようになった。それを確認してからバオウはヒューゴの身体を投げ捨てた。
「じじい相手に遊んだつもりだったんだがな。苦戦しているような状況だったが,大したことは無かった。おれはあんたらを買いかぶりすぎていたのかもな」
ふっふっふっ,と笑い声がした。ヒューゴだった。まだ生きているのか。ひとつ息を吐いて,眼球を動かした。そして口をもごもごと動かした。何かを話そうとしているようだ。
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