AI vs アナログな旅人たち ⑧~Dr.ヒューゴ~
「どういうことだ。・・・・・・お前らクロか! 何が目的だ! おれたちの町を襲うというのは本当か!」
酒を飲んでローストチキンを薦めてくれたおじさんがにやっと笑った。よく見ると,この二人・・・・・・同じ顔をしている! 髭の生え方や着ている服装,醸し出す雰囲気が違うから気がつかなかったが,もしかして・・・・・・人間じゃない?
「情けねえなあ。こうなるまで気がつかないとは。人間をやめて正解だったよ。私たちはDr.ヒューゴ様の思想に従うものだ。特に意思も目的もない」
「ヒューゴっていうのはそのじじいか? お前の思想とやらはなんだ」
ヒューゴと呼ばれるその老人は一瞬悲しそうな顔を浮かべ,こちらをそれぞれ一瞥した。そして深く息をつくと,手でハンマーを持った二人に下がるよう合図をした。
「お前さんらのようなきらきらした目をしているものには分からんよ」とかろうじて聞こえる声で言った。その目は死んでいるように濁り,顔には暗い影が差している。何か闇を抱えている人の顔つきはこうなるのだろうか。食べ物が無くて飢えている人,大切な何かを失ってしまった人,自らの手で人を殺めてしまった人・・・・・・。そんな人たちの顔に滲み出るような陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
人は悲しい生き物じゃ,嘆息するようにしてぽつりと呟いた。革靴をこつこつと鳴らしながらこちらに近づいてくる。そして,腰を下ろすのに適当な箱に腰を掛けた。皺だらけの顔を両手で覆ってうつむいた。それからもの悲しそうに,自らの過去について語り始めた。
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まだ若い頃、わしは地球の発展を心より願い,期待し,より便利で幸せな世界を実現するために力を尽くしていた。研究の成果や技術が認められれてそれなりに名前が通りだした頃,わしは科学の研究開発チームとして呼び出された。片田舎に住む者としては大出世じゃった。家族は家系からだけではなく,村一番の大人物を生み出したとそれはそれは喜んだ。迷いもせず,わしはその申し出を引き受けた。大好きなことをして,家族や村人を喜ばせ,人様の役に立つことが出来るというのが嬉しくて嬉しくてたまらんかった。
そこで求められていた仕事は,人々がよりよい生活をするためのエネルギー研究じゃった。わしは,そこで精いっぱい働くことがこれから多くの人々に笑顔を与えると信じていた。研究に研究を重ね,寝る間も惜しんで新たな理論とそれに伴う物質の開発に成功した。その物質の名はアトム。おぬしらも聞いたことがあるじゃろう。爆発が爆発を呼び、そのエネルギーは物質が空気に触れるまで半永久的に継続し,膨張し続ける。アトムがため続けたエネルギーに耐えきれず入れ物がはじけ飛ぶとき,一気にそのエネルギーは拡散する。
悪魔を生み出したと気付いたのは全てが終わってからじゃった。
この原理を応用すれば,そう考えると可能性は無限大にないに広がった。馬などの生き物を国j視しない乗り物、老体に無理をさせない農業や宅地の開発,闇が訪れない町・・・・・・この世界が希望に包まれているのを感じていた。しかし,この技術は思うようには進まなかった。わしの研究成果を示すと,その原理の応用と実践は別のチームに回された。それから何が起こったか・・・・・・。わしの村が,わしの生み出した悪魔、アトムによって吹き飛ばされた。
それを知らされたのは,村が吹き飛ばされて数ヶ月経った頃じゃった。もう当時の景色は跡形もなく変わっており,復興の兆しを見せていた。アトムが持っているエネルギーを軍事利用すればどれほどの惨事になるかは見なくても分かる。きっと,地獄絵図の中のような風景にわしの家族や友人は登場していたじゃろう。そして,その地獄絵図を描いたのがわしのじゃったと知ったときの絶望がお前達に分かるか。
わしを科学チームの一員として招集した組織は,悪びれもせずこんなことを言いよった。「新たなる素材を作ってくれ。一緒に世界をとろう」とな。
人間とは愚かなものじゃ。憎しみが憎しみを呼び,ふと立ち止まって自らが犯した過ちに気付いては「二度と繰り返すまい」と猛省する。じゃが,人間は繰り返す生き物じゃ。過ちであった歴史もまた繰り返される。
人間の作るこの世界に希望などない。そもそも世の中は平等ではない。人間の両腕がどれほど発達しようとも鳥のように美しい青空を飛ぶことは出来ぬし,両足をどれほど鍛えてても馬のように速くは走れない。だから,私は知力を持ってして人に夢を見させ,同じように生物の幸せを享受したかっただけなのじゃ。じゃが・・・・・・人は愚かじゃ。欲望のためなら人の不幸を顧みない。
だからわしは,組織の言いなりになる振りをして,自らの命と共に,せめてこの組織だけはこの世から葬り去ろうと考えた。村に対する,わしの行いに対するせめてもの懺悔のつもりでな。研究発表の場面でわしは組織のものの前で,アトムと共に自爆した。それでわしは終ったはずじゃった。
じゃが,目を覚ますと,あの奇跡と呼ばれるお方と共に病室にいた。お前達も知っておるじゃろう。・・・・・・わしはアトラス様に救われた。
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