AI vs アナログな旅人たち ⑥~悪いシナリオ~

「おい! キレがなくなってきたぞ! ぼーっとするな! さっきまですごい戦いやすかった。あの調子で頼む」


 こちらを一瞥してニカッと笑ったかと思うと,ロボットとの距離を一気に詰めて槍を突き出した。全身を使って押し込んだ槍は見事にロボットの腕を貫いた。さっきよりもさらに余裕が出て,相手の動きにみるみる対応している。この差は何なんだろう。

 強くなりたい。自分も一線で戦いたい。でも,今やるべきはサポートだ。ジャンは,戦いやすかった,と言ってくれた。自分も役に立てている。

 自らを奮い立たせて,やるべきことをやる。でも,もう役目が終わったみたいだ。槍が貫通したのを皮切りに,槍を次々と詠唱で出現させては動きの鈍くなった相手に突き刺した。四本目の槍を足ごと地面に突き刺した時,勝負が決まった安堵感が胸の中に広がった。


「やれやれ,痛々しいが,痛みとかはないんだろ? こちとら簡単に命を落とすわけにはいかないんでね。二対一でも容赦なくやらせてもらったよ」


 額に浮いた汗を拭いながら情けをかけるように語りかけてはいるが,決してロボットの攻撃の射程圏内には入らない。いつどこから攻撃が繰り出されるのか分からないから,用心過ぎるに越したことはない。

 しかし,身動きの通れないロボットから無機質ではありながら不気味な雰囲気のある音で言葉が発せられた。


「一人で懲らしめに来たと,誰が言った?」


 その言葉に反応したときにはすでに遅かった。

 突然視界にハンマーのような鈍器が現れ,ジャンを吹き飛ばした。


「情けないねえ」


 声のした方向を見るが,誰もいない。いつの間にか,ジャンを殴り飛ばしたハンマーも消えている。

 ジャンは10メートルほど弾き飛ばされたところで右肩を押さえながらうずくまっている。


「ジャン! 待ってて! すぐ行く!」

「来るな!」


 うずくまったまま顔を上げてジャンが叫んだ。


「やれることをやれ! 分かっているな! 最優先にやることは,負けないことだ! 生きていたら勝ちだ。とにかく相手から目を離すな。そして・・・・・・隙を見て逃げろ!」

「そんなこと言ったって・・・・・・」


 そんなこと言ったって,置いていけるものか。また同じ失敗だと言われるかも知れないが,そんなことはない。ジャンを助けて,自分も生き残る。

 落ち着いて状況を確認しよう。敵はおそらく二体。うち一人は戦闘不能の状態だが,その場から遠距離攻撃を仕掛ける可能性も考慮しなければならない。いろいろなことを想定する中で,二人で勝ちきるならジャンと離ればなれの状態では無理だ。

 とっさの判断でジャン倒れているところへ駆けつけた。体に槍を突き刺されて身動きの取れないロボットの腕がこちらに伸びた。一瞬光ったかと思うと,光線が飛び出た。


「危ないだろ! このウニ野郎!」


 警戒していたため避けることは困難ではなかったが,光線の当たったテーブルは吹き飛んでいった。当たったらただじゃすまない。

 軽快なジャンプの先にはジャンがいる。綺麗な身のこなしをする自分に酔っていた部分もあった。目の前で口を開いてジャンがつばを飛ばしながら何かを必死で伝えようとしているが,はっきりと聞き取れる前に頭に衝撃が走った。

 ハンマーが視界の隅にある。あり得ないと思って考えないようにしていた恐ろしい予想が的中していた。この中に,姿を消せるロボットがいる。


「ちっ。打撃は防いだのに,吹っ飛ばされたときにあばらをうっちまった。骨が完全にいっちまってるな」


 いてて,とあばらをさすりながらテーブルを補助にしてジャンが立ち上がる。


「無理・・・・・,するなよ」

「ばーか,瀕死状態で何言ってるんだよ。泡吹いてんぞ。逃げろって言ったのに,だからそんな目に遭うんだ。ほんと学ばないなあ」

「決めたんだ。ほっとかないって。それが信条だ」

「きれい事並べやがって。まあなんとなく分かってたけどよ。・・・・・・お。こいつは使えそうだ」


 ジャンが手にいくつかの瓶を取ると,力を振り絞ったかのように地面にへたり込んだ。


「いててて。・・・・・・ソラ,これをそこら中に撒け。一つはそのまま持っておくんだ」


 そう言って瓶を三つ投げてきた。それを受け取り,なにこれ,と呟いて手元を見ると「salt」「Pepper」「Hot」とラベリングがしてあった。調味料だろう。


「これを撒いて食ってやろうってわけだね」

「つまんねえ冗談はやめろ。適当に,できるだけ広範囲にだ」

「これに吸い寄せられるの」

「まじで分かんねえのかよ。これを撒いて,相手の動きを探るんだ。物体として存在しているなら,跡が出来たり,近づいてきたのを察知できるはずだ。・・・・・・さすがにないとは思うが,攻撃の時だけ存在として現れて,それ以外は姿が見えないだけじゃなくてそもそも存在しないというのが一番そそられるパターンだな」


 頭いいな~,と感心してできるだけ遠くの方に振りまく。とはいえ,あまり遠くに撒いても効果が見えにくいため,壁に背をつけてできるだけ面積を無駄遣いしないように,視界に捉えられるぎりぎりの距離に撒いた。


「こっからは我慢比べだ。次の手も考えておかないとな。おれたちがない知恵を絞っている間に,外で応援を読んでいるかも知れない」


 そんな心配は杞憂に終わり,すぐに動きがあった。ただ,シナリオはもう一つの悪い方が証明された。

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