AI vs アナログな旅人たち ⑤~達人の太刀筋~



 光った目元から光線のようなものが飛び出る。その鮮やかできれいな光は一直線にこちらへと伸びて、身体を貫く。あまりにも完璧なその光は不必要に体を傷つけず,この心臓に穴をあける。

 そうしてそのあとはジャンがすべてを片付けてくれた。そして,とうとう悪の親玉にも制裁を下して大切にしていた故郷を守ることが出来たとさ。めでたしめでたし。これでシナリオは完成。

 剣は機械の関節の役割をしている繋ぎめに刺さった。覚悟を決めた。目をつぶらず,剣をぐいと押し込んだが,ロボットに動きはない。もしかして,力尽きた?


「また自分を犠牲にして勝とうとしただろ」


 ジャンは剣を鞘に収めながらこちらに歩いてきて,近くの椅子に腰かけた。 

 ロボットの身体が,一流の剣士が竹を斜めに切ったように真っ二つになった。その切れ目はぶれひとつなく,闘いの中で行われた一筋とは思えなかった。剣に長けている学校の教官でさえもここまで美しい太刀筋では切れない。ジャンは天才だ。


「前も言ったよな? 今ソラが死んだら,おれはどんな気持ちでこれからを生きていけばいいんだ? まさかソラの想いまで汲み取って,これからも立派に旅を続けられるとでも思っているのか? 今失いかけている故郷に,のうのうとおれが帰れるとでも思っているのか? 想像力が足りない。人の命ってのは軽くないんだ。たとえ仲間が死んでも,自分は生き残る。その選択を常にし続けろ。何度も言わせるな」


 そうだ,チチカカに命を落としてまでミュウを守ろうとしたとき,ジャンに叱られた。また同じだ。自分の行動でジャンが命を懸けて守ってくれた。もっと楽に勝てたのかもしれないのに。

 森のことを思い出しながら反省をしていると,肩がいつもより軽いことに気が付いた。


「あれ,ミュウがいない・・・・・・」


 慌ててあたりを見回していると,商人がいたところの近くの窓が開け放たれている。そこから商人は逃げていったのだろう。ミュウも一緒に逃げられているといいのだけど・・・・・・。


「おい,聞いてんのか。まあ,ソラが上手いこと隙を見つけて攻めたからおれの攻撃が入ったんだけどな。フォーメーションとかもはったりだったし。でもな,自分が死んでまでなんて,お前にそんなことはしてほしくないんだ」


 ジャンの言いたいことは分かる。でも,頭の中はもうミュウのことでいっぱいだった。


「技は自分で磨け。神に頼むな。最後に信じられるのは自分だけだ。例え兄貴が死んでしまうとしても,自分の正しい行動を貫け。分かったな・・・・・・。おい,分かったな!!」

「・・・・・・あ,ごめん。でも,兄貴はいないよ」

「仮定の話だ!!!」


 ジャンが怒鳴ると同時に,扉が開いて外から自然光が入ってきた。それと同時に,さっきのロボットと同じ光沢をした体に,背中には羽,右手には斧,左手は指はなくそのままナイフのように鋭利に尖った,人を殺すために生み出されたような仰々しい姿をした物体が入ってきた。

 まじかよ,と再び槍を取り出したジャンと共に戦闘態勢を取る。


 今の今でまた剣を取ることになるとは。しかも,光沢に光った身体に大きな目。宇宙人を連想させるロボットはさっきよりも数倍強そうだ。きっと,人間の作りをした体つきもはったりでいろいろな仕掛けがあるに違いない。人間のレベルを超えた動きに火炎放射器。今度は何を出すというのだ。


「さっきはポンコツの相手をさせて悪かったね。でも,もう退屈させないから」


 綺麗な発音で人間の言葉を話すその機械は,それだけでさっきのロボットとは別格の存在感があった。やれるのか。

 二人とも傷を負っていないのが幸いだった。もう一度,やるしかない。今度こそ,自分の命を大切にしながら!


 命がかかっている。一歩間違えたら死ぬ。そんな生と死の淵を歩いているという感覚を持っているだけで,疲弊する。痛みのない身体に疲れが重くのしかかる。常にダメージを受けている。そんな状態で連戦が続くと,戦い慣れていない経験の差が露呈するようで自分を保つので必死だった。

 ロボットの動きはさっきと同じように素早い。身のこなしも軽い。

 ジャンはというと,動きは相変わらず機敏でロボットを翻弄しているようでさえある。ただ,明らかにこちらの動きを常に気にしており,ロボットの注意がこちらに向かないように細かい攻撃を繰り返して牽制している。

 自分にも出来ることがあるはずだ。勝負を決める決定打が自分にはまだ打てないことを承知している。せめて遠距離から攻撃を繰り出してジャンのサポートに回ろう。自分は相手の射程圏内に絶対に入らない。勝とうとして攻めるのではなく,負けまいとして手を打つ。それがジャンのサポートにも繋がる!

 そう自分に言い聞かせて,次にロボットが動きそうな方向やジャンに攻撃を与えようとしたタイミングを見計らって気功法を放ち続けた。

 視界が悪い。思わず,涙がこぼれ落ちていた。最前線に立ち向かうことが出来ずサポートに回るしかない自分の力を恨みながら,狙いを定めて腕を振るった。

 何もできない自分がただただ情けない。

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