AI vs アナログな旅人たち ④~いつもの戦術~
速い。ダメージを受けないように防ぐのが精一杯だ。無理に攻撃に転じようとすれば,カウンターをくらいそうだ。ロボットと戦うなんてもちろん初めてだが,人間との違いに圧倒されそうだ。動きが読めない。
「間合いをしっかりと取れ。二人で隙を作り出して確実に攻めるぞ。今は物理攻撃でしか攻めてこないが,いつ何が出てくるか分からん。仕留めようと思うな。絶対にやられん,という慎重さでいくぞ」
そう言われても,ここで苦戦しているようでは・・・・・・
「こいつらは町を攻めようとしてるんだろ? それに,きっと何体もいるはずだ。たった一体に二人が苦戦していたら守れないじゃないか!」
思い切って踏み込もうとすると,待て,とジャンに制止された。ロボットが手のひらを突き出したかと思うと,直後にデザートナイフが突き出した。止められなければ,きっと致命傷を負っていただろう。そこで勝負は決まっていたに違いない。想像すると背中に冷たいものが走った。
「いいか,おれたちは普段,人間や動物の視線、筋肉の動き、もっと言えば考えていることまでも読み取りながら対応している。こいつらからはそれが読み取れない。必要以上に慎重にならないといけない。お前の言いたいことも分かる。でも,ここで傷を負うようじゃあだめなんだ。それに,やっていたら弱点や攻略法が見つかるかも知れないだろ。お前は始めから剣が振れたのか? とにかく,おれを信じろ。あらを探して,このふざけたマシンの弱点をさらしてやる」
剣をしまってロボットと対峙した。間合いをじりじりと詰めてくる。ジャンが近くのテーブルからナイフを取り出すと右手に放った。と同時に,投げたナイフとは反対の方向に走り出した。何かを試している。
ロボットがナイフの方を確かめるように見た。完全にそちらに気を取られている。ジャンがすかさずロボットの方向に進路を変え,攻撃態勢に入った。ところが,ロボットの腕が肩口まであがった次の瞬間には,火炎放射器のように炎がジャンを襲った。
危ない! と声をかけたときには素早い身のこなしで軽々と避け,こちらに戻ってきた。
「やっぱりな・・・・・・」
「手のひらから炎が出てきたね。やっぱり力を隠していたみたいだ」
「いや,そうじゃねえ。あいつ,人の動きを装っているけど,作りは効率を意識して作られている。的を認識するモニターもきっと顔には付いてない。きっと両肩か,あるいは背中にも付いているだろうな。ナイフを見ている振りをして近づいてきたおれを攻撃してきやがった。それに,足も首も三六〇度回転するぞ。相手の反応でこちらが動いたら後手後手になっちまう」
たった一回の攻防でかなりの分析をしている。これが経験の差だろうか。自分には何が出来るのだろう。
「それで,何か打つ手はないの? まさか,急所がないとか・・・・・・。まさかもうお手上げって訳じゃないんでしょ?」
「ああ,穴は見つけた。ただ,一対一じゃ分が悪い。連携するぞ。おれが一瞬の隙を生み出す。ソラは骨盤にある隙間に思いっきり剣を突き立てろ。人間の体のつくりを模している以上,あそこにダメージを与えたら体の動きは一気に悪くなるはずだ」
最後まで言い終わらぬうちにジャンは駆け出した。
これからくるであろう好機を絶対に逃さない。右手に握った剣に力を込め,少しずつロボットの方へとにじり寄った。
短い詠唱の後,今度は槍を手に取った。近づきすぎず,相手の様子を伺いながらけしかけるのにはちょうどいいのだろう。ロボットとジャンはにらみ合いながらお互いけん制し合っている。もちろん,ロボットの視界が何を捉えているのかは分からない。ジャンの分析によれば,両肩か別の所にモニターが付いているはずで意識はこっちに向いているかもしれない。油断は禁物だ。
「ソラ! おれが今からこいつに攻撃をする! いつものフォーメーションに持っていくから2分間は手を出すな!!」
ロボットが体を一瞬こわばらせた。しかし,隙は感じられない。ここからどう崩すのだろう。
そんなことよりも,かつての記憶をたどりながらパニックに陥りそうになるのを抑える。
いつものフォーメーション? 何かいままで作戦を組みながら戦ったことがあっただろうか。戦いの場に一緒にいたとすれば,ジャックベアと戦ったことぐらいだ。特に何か打ち合わせがあったわけではないし,相手が遅く見えるほどの身体能力の覚醒があったからたまたま勝てたぐらいのことだ。まさか,また都合よくその奇跡を見せろとでも言っているのだろうか。
とにかくロボットから目を離さないようにした。やれるだけのことはやる。それは自分の中でも誓った。ただ,奇跡を起こすように最善を尽くせというのはわけが分からない。戸惑いの中でネガティブな考えが頭の中を支配する。
そもそも奇跡というのは起きるべくして起こるのではなく,それこそ突拍子もないタイミングで不意に起こるものだ。願っている時点でもうすでに負けているのではないか? 狙って起きる現象は間違いなく実力のなせる技だ。でも,今の自分にはそんな力は備わっていない。・・・・・・まさか,ジャンはあの力が意図的に発生するものだと信じて疑っていない? 自分にはその力が備わっている? 考えてもしょうがない。とにかくやるしかないんだ!
さまざまな葛藤が胸の中で暴れまわった。ただ,視線はジャンとロボットのせめぎあいから離れていない。
その時,ロボットに一瞬の隙が見えた。ジャンが突いた槍がロボットの体勢を崩した。行くなら今しかない。
「ソラ!!! 今だ!!」
分かってる。言われる前に動いた。右手の剣を大きく振りかぶってロボットの骨盤に向けて繰り出す。その時,不気味にもロボットの顔がこちらを向いた。
モニターは肩についている。このまま差し切ればこちらに分がある。大丈夫。そう自分に言い聞かせたのもむなしく,ロボットの目元が光った。これから攻撃が下される。それも,致命傷か命に関わるものだ。ただなんとなく,直感的に分かった。
それでも,攻撃をやめることはしなかった。この後はジャンがきっとうまくやってくれる。頼んだよ。
強くそう願い,剣に力を込めた。
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