AI vs アナログな旅人たち ③~新たなる刺客~
二人のおじさんは,この近辺で商品の移送や仲卸をする商人をしていた。最近は商品の流通が激しく,財布がかなり潤ってきたということだが,このラムで武器や燃料になるもの,何に使うのかも分からない得体の知れないものがかなりの値段でやりとりされているらしい。
ある日,商人が港町で仕入れた情報によると,ラムの町で武器の納品や資源の買い占め具合から戦争を始めようとしていることを突き止めたらしい。これからすぐ争いに発展するとい状況ではないため,もう少しここで稼いだら争いが始まる前に本拠地を移そうという算段だったようだ。
「どうしておれたちの町が襲われるんだ。近いとはいえ,森を抜けていくのは手間だし,それに見合ったメリットがあるとは思えない」
腕組みをしていた手をほどき,こめかみを押さえながらジャンは誰に菊でもなくつぶやいた。
「試したいんだろうな。今,この町で新しい兵器が開発されている。ここで働くロボットもそうだが,明らかにそう長くはない期間のうちに技術は進歩している。その技術を,報復の心配のないどこかで試したいんじゃないかな。争いにはよくあることだ。自分たちの兵力をよそへ見せつけたり,何かの実験台として無関係な土地や住民が犠牲になることは,悲しいことだが現実としてあるんだ」
分かった,とジャンは呟いて椅子に腰を下ろした。何かを決意したようだが,きっとこの戦いに参戦するに違いない。自分が生まれ育った町を守るために戦う,もう守られる存在とはおさらばだ。ジャンの横顔を見ながら覚悟を決めた。ミュウが顔を覗かせ,心細そうに小さく鳴いた。
「お前さん達,まさかこの町を相手に武器を取る気か?」
「まだ先のことは分からねえ。それに,いろいろ探らないとな。今は考えたってしょうがねえ。これからのために,まずは腹ごしらえだ。食うぞ,ソラ」
テーブルの真ん中に空洞が現れ,ロボットがビールを二つと小皿に入れた水を持ってきた。
「さあ,いきなりでかい話になりそうだが,おれたちの故郷を絶対守ろうぜ」
二人でグラスを,ミュウは小皿の前で舌を出して乾杯した。
ビールをのどの音を鳴らせて飲み,ローストビーフにがっついた。うまい,と思わず声が漏れた。テーブルの下から料理が出てきたが,その下はどうなっていて,どこにキッチンがあるのだろう。
「そういえば,ここでは料理もロボットが作っているの?」
同じ席で一緒に飲み直すことにした二人の商人に尋ねた。
「どちらとも言えねえな。あれだけ精巧に作られたロボットでも,さすがに味覚はない。だから,始めはキッチンでシェフが作って,それをロボットがウェイターとして運んでいたんだ。ところが,ロボットは味は分からなくても具材の分量や盛り付けは覚えちまう。それでロボットが徐々にキッチン周りに立ちだして,しまいにはロボットが間隔で作ったものを人間が味見させられるようになっちまったらしい」
ジャンが怪しげな顔で聞き入って,疑問を口にした。
「よく知っているな。でも,ここにキッチンがあるようには見えないが,それも噂の一つか?」
商人の一人はかぶりを振った。さっきまでお酒を飲んで気持ちよくなった表情は影を潜め,どこか辛そうでもある。
「噂だとよかったんだがな。港町にはここのキッチンをもともと仕切っていたシェフや見習いが何人かいる。嫌気がさして逃げ出したらしい。実際,人のような扱いはしてもらえず休憩もなしに働きっぱなしだったらしい。そりゃあ,ロボットは疲れ知らずだからな。だからって,その間隔を押しつけられたらたまらんだろ」
ジャンが唸るようにして低い声を出し,ゆがんだ顔で何かを考えている。この町は本当にロボットが支配されているのだろうか。そんな気がしてきた。
「ところで,ロボットには感情はあるのかな? 例えば,楽をしたいとか,世界を支配したいとか・・・・・・。この町のトップを見たことがないって言っていたけど,ロボットに感情があるならばもしかしたらラムを裏で仕切っているのもロボットという説も考えられる。だとしたら・・・・・・,本当に手強いんじゃないかな」
頭の中をフル回転させて考える。人間がロボットをうまく操り,侵略を企てているとしたら交渉やするべき事が考えやすい。もし,ロボットが感情を持ってこれから良くない展望を見据えているのだとしたら・・・・・・。
突然、店内の入り口付近の天井が大きな音を立てて開き,何かが降りてきた。体全体に金属をまとったような姿のそれは,間違いなくロボットだった。ただ,他のロボットとは明らかに動きが違う。つやのあるシルバーの色をした表面からは想像できないほど柔軟で精密な動きをして,ゆっくりとこちらへ向かって歩いてきた。
「あまり余計なことに首を突っ込むなよ。だから後悔することになるんだ。ベッドであほ面さらして休み,旅人ごっこを楽しんでいたら良かったのにな」
商人はおぼつかない足取りで反対側の壁へと後ずさりした。ジャンとともに武器を手に取る。
「ソラ,準備は良いか。お話をしに来たって言う雰囲気じゃねえぞ。あのツルピカ野郎が親玉か知らねえが,主力であることは間違いない。ここでたたくぞ!」
ゆっくりと歩いていたかに見えたロボットは,ノーモーションで加速して迫ってきた。
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