AI vs アナログな旅人たち ②~うわさ話~

「こちらが部屋になります。二人一部屋になっておりますが、こちらのボタンを押しますとプライベート空間を意識した防音シャッターが立ち上がりますが、いかがなさりますか?」

「すごいな。よく分からないけど、話をしたいからこのままにしておいてもらえるかな。どうもありがとう」


 ごゆっくりと,口のようなところから音声を発して,器用に体だけを180度回転させて出て行った。開いた口が塞がらない。


「いやあ,森一つ超えただけなのに世の中広いなあ。これだから冒険はやめられないんだよ」


 興奮した様子でジャンはキョロキョロ部屋の中を見渡している。何のために設置されているのか分からないけど動作している機械がいくつかあった。

 ひとしきりものを触ったり眺めて落ち着いてくると,急に空腹感が襲ってきた。ミュウもお腹をすかせたのか,小さく鳴いている。


「この建物の中にもご飯屋さんがあったね。腹ごしらえしてから明日からのことを考えよう」

「そうだな。それに,旅に必要なものも整理して明日買いに行こう。きっと,便利なものがたくさんあるはずだ」


 部屋を出てすぐの所にある自動案内システムに従ってご飯処へと向かった。その場所は旅人や町の人々が疲れを癒やしたり食事をしたりする憩いの場でとして繁盛しているのだろう。そういえば,ラムに来て初めて人を見た。

 適当に空いているテーブル席に腰を落ち着け,注文をしようとしたがウェイターのような人はいない。ここでは注文もロボットを相手にするようだ。

「全部うまそうだな。もしかして,おれたちが知って食材は一切使ってなくて,全て人工のものだったりして」

「なんかあり得そうな気もしてきた。化学調味料とか言うレベルではないかもね」


 いろいろな想像を巡らせてはいたが,隣のお酒を飲んでいるおじさんたちのテーブルにはおいしそうなしょくざいが並べられている。


「うまそうだよな。とにかく腹が減った。頼もう」


 注文の仕方が分からず当たりを見回すと,おじさんが話しかけてきた。


「おう,初めてって感じだな。ここはいいぞう。何もかもが機械がやってくれる。人の手はいらない。気兼ねもしないし,何よりうまい。初めてならここのローストチキンは絶品だぞう。そこのボタンを押して頼むんだ」


 お酒の匂いが鼻をついた。かなり飲んでいるみたいだ。テーブルの中央にあるボタンを押すと,テーブルの真ん中に穴が出現してロボットが顔を覗かせた。


「ご注文の品は?」

「えっと,その・・・・・・,おすすめをください」

「おすすめは全てです。では,全てお持ちしますね」

「いや,じゃあ,ローストチキンをお願いしようかな」

「しようかな,では困るのです。はっきりしない人ですね。これだから人間というものは。」


 ジャンは分かりやすく眉間にしわを寄せ,貧乏ゆすりをしながら声を張った。


「ローストチキン! それからビールを二つ!」


 かしこまりました,と言ってロボットは机の下に下がっていった。ジャンが机の下にある筒の形をした柱を小突いている。


「なんだよ,偉そうに。人間様に使われておきながら,『これだから人間は』だってさ。ばかじゃねえのか」


 ジャンが怒りで髪の毛を逆立てていると,隣のおじさん二人がビールを片手に揺らしながら笑った。


「いやあ,おもしれえよなこの町は。まあ,確かにロボットは人間に使われるために生み出されたものなんだけど,このラムではロボットが国の主をしているんじゃないかって噂だ。そうなると,おれたち人間がロボットに使われる比がくるかもしれないな。まあここ百年ぐらいこの国のトップの顔を拝んだ人間がいないって言うんだから,確かではないが謎に満ちあふれていることは間違いないな」


 景気もいいからなあ,ともう一人のおじさんがグラスを置いて続ける。


「おかげでおれたちの商売も調子がいい。きっと,あの噂は本当だぜ。この国は戦争をおっぱじめる。ここ最近のエネルギー資源や武器の買い占めが半端じゃない。近くの町を少しずつ乗っ取って国を拡大していくってなら,確かに人間がロボットに支配されるようになるだろうな。普通の町じゃ,このロボット達に太刀打ちできんだろう」

「この近くに,何か町があるのか?」


 慌ててジャンが問い詰める。月が落ちてくると心配している男のようだ。何をそんなに気にしているのか,と不思議に思っていると,おじさんが驚くべきこと言った。


「ああ,あまり知られていないけどな,ここを南に下ったところに大きな森があるんだ。その向こうには,へんぴな町がある。そこを侵略するべく準備をしているのではって言われているな」


 嘘だろ,と声を張ってジャンはテーブルをたたきつけた。勢いよく立ち上がると,おじさんに掴みかかる。襟元を持って揺さぶられたおじさんは呼吸が苦しそうだ。一緒に酒を飲んでいたもう一人の男も状況が掴めずとにかくジャンを押さえるのに必死だ。慌ててジャンとおじさんを引き離した。


「おいおい,どうしたって言うんだ」

「詳しく説明しろ!」


 落ち着けよ,とジャンをなだめる。ゆっくりと呼吸をして息を整える。目つきが冷静になってきた。おじさん達も獣が暴れ出したような恐怖感から解放されたみたいで,胸をなで下ろしている。


「すまない,あんたたちは悪くないのに,興奮してしまった。・・・・・・その町は,きっとおれたちが生まれ育った場所だ。知っていることを教えて欲しい」


 二人は,そうだったのか,と納得した様子でうなずき,一緒のテーブルに座るよう促した。

 そして,ここ数日間のこの町の動きを話してくれた。



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