AI vs アナログな旅人たち ①~進路は北へ~



 出口まではそう時間はかからなかった。震えるミュウをあやしながら歩いていると,すぐに地上へと開けた場所へとつながりそうな道へ出た。

 森を抜けると,入り口とはまた違った世界が広がっていた。青々とした森は一変して,木々が赤く染まっている。自分の街を出たことがなかったから世界が新たに開けた気がして嬉しくなる。

 

「いや~,今晩の食材は決まりだな。町まで一気に行って休もうと思っていたけど,馬車どころか人やモンスターの気配すらない。こりゃあ人間の言葉が話せる動物の鍋でもつつきながら野宿だな」


 ミュウは小さく鳴いて服の中に隠れた。遠くの方で荷物を積んだ馬車が見えた。


「ジャン,あんまりいじめるなって。ほら,あそこで馬車が走っているよ。きっと,こっちの方を通って町へと物資を運んでいるんじゃないかな。ほら北に向かっているあの馬車。行ってみよう」



 手を振りながら大きな声で呼びかけると,荷車の手綱を握っていたおじさんがこちらに気付いた。


「すみません。この近くに町ってありますか? 泊まれるところを探しているんですけど,道に迷ってしまって・・・・・・。」

「ああ,この道をしばらく行くと,機械工で栄えたラマという町があるよ。最近はどこも有事に備えて軍事力向上に躍起になっているからね。その主要値はお金が動く。ただ,あそこは特に急激に進歩してきたな。人が支配されるんじゃないかって噂だ。ところで,お前さんたちは歩いて行くのかい? しばらくって行っても,歩いたらずいぶんかかる。スペースに溶融があるから,荷台で良ければ乗っていくかい?」

「いいんですか? それは助かります」


人が支配される? どういうことかよく分からなかったが,ジャンと頭を下げて馬車に乗せてもらうことにした。荷物を寄せて,人が二人座れるスペースを確保してもらった荷台に乗ると,馬車は出発した。

 がたがたと揺れてお尻と腰を痛めそうだったが,それでも数日歩き続けて目的地へ行くよりは何倍もましだ。


「ラマ・・・・・・。山を一つ越えた始めの町なのに,聞いたこともないや。かなり発展してるって言っていたけど,実際堂なんだろうね?」


 ジャンに問いかけると,返事がない。耳を澄ませると,車輪に合わせて揺れる荷物の音との合間に静かな鼻息が聞こえてくる。まさか,と思って顔をのぞき込むと,気持ちよさそうに眠っていた。疲れたにしてもよく眠れるよ,と感心に近い感情が沸いてきたが,あの気持ちよさそうな顔を見るとこちらまでほっとする。

 森での戦いを思い返しながら,今度は誰も傷つけず,大切なものを守りたい。そのためには,もっと強くならないと。そんなことを考えながらだんだん小さくなっていく森を見つめていると,まぶたが重くなってきた。


 どれくらいの間揺られていただろうか,気付いた頃にはあたりはすっかり暗くなっていた。


「おい,よく寝られるな。着いたぞ」


 親切そうな商人も,さすがに長旅で疲れが顔に表れている。それでも表情を柔らかくして見送ってくれた。


「お疲れさんだったな。わしは少し取引先の所へ顔を出してから休むことにする。荷台から降りたらビックリするぞ。目の前に大きな建物が見えるから,それが待ちで一番大きな宿舎だ。そこに泊まるといい」


 礼を言って荷台から降りた。荷物を載せた馬車はゆっくりと走り去っていくのを見送りながら,そこで見た光景に思わず目をむいた。赤煉瓦の建物は何かを作っている工場だろうか。ガラス張りになっているところはテラス席のようにしてテーブルが並べられているからレストランが併設されているのかも知れない。暗くてあまり見通しは良くないが,建物全てが近未来のようで,ロボットのようなものが何かを運んだり,低空を滑空しているものもある。


「すごいな。噂には聞いていたけど・・・・・・。どういう仕組みで動いているんだ?」

「分からないけど,作った人は相当頭がいいんだろうね。・・・・・・あれ,そういえばジャン,この町には人影がないね。みんな家の中かな・・・・・・。」

「言われてみたらそうだな。とにかく,今日はもう休もう。おっちゃんが言ってた宿舎はあっちだな」


 あまりにも先進的な町のものに目を奪われながら,二人で宿舎への道のりを進んだ。

 タイル調の石で建てられているように思えたその建物は,一歩中に足を踏み入れた途端また違った印象を与えた。外から見たら石のような手触りを感じさせる様相だったが,建物の中から見るとガラス張りのように見える。この宿舎を利用する人たちのプライバシーは守られているが,外の景色や町の様子を楽しむことが出来る。


「さすが,進んでいると言われるだけあるなあ」


 ジャンが感心したように言った直後、さらに驚くべき事が起きた。

 いらっしゃいませ,と声がする方向に顔を向けると,人の姿形をした足がキャタピラになっているロボットが立っていた。


「ご予約にはない顔ですね。でも,今は部屋はいくつか空いていますのですぐご案内出来ますが,どうしましょうか? そちらの銀髪のお客様は,『なんだこいつは? おれは夢でも見ているのか?』という気持ちの中にも旅の疲れがあるようですので,すぐにご案内いたしますね」

「おいおい・・・・・・,話が早くて大変ありがたいんだが,一体どうなっているんだ? あんた,ロボットだろ?」

「初めてこの町に来るお客様は皆そういう顔をされます。でも,心配ご無用。すぐ慣れますよ。町には私のようなロボってであふれています。ロボットの暮らす町と言う人もいるほどです。ラムの町を楽しんでください」


 所々に機械独特の無機質なイントネーションも感じられたが,注意をしなければ人が話しているようだった。このロボットには意思があるかのようだ。

 荷物を持って部屋へと案愛してくれるロボットの後ろを興味深く観察しながら歩いて行った。



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