あれから2年⑤~じいちゃんは強かった~

「話はあとじゃ! とにかくこやつを全員でやるぞ。わしがやつを狩る。援護せい!」


写真で見たおじいちゃんが目の前で指揮を執っている。この人が預言者と言われた人。みんなに慕われて,惜しまれながら亡くなった人。あれ? 死んだはずなのにどうしてここにいるの? それに,写真より少し若く見える? 聞きたいことが次から次へと頭へ浮かんだが,そんな余裕はない。素早い動きでジャンと連携を取っている。青い髪の男はリーチの長いジャンの剣と,光のような速さで短刀を操るおじいちゃんを相手にして防戦一方だ。なにか自分にもできることがあるはずだ。


「平静を取り戻したようじゃの。さすがわしの孫,お前には素晴らしい力が秘められておる。その力はこの世を必ず正しい方向へと導く。今のお前に唯一足りないものは”自分を信じる力”じゃ。さあ,目をつぶるなよ。カッと目を開いて,みんなで行くとするぞ」


おじいちゃんの言葉は不思議だ。どんどん力が湧いてくる。今なら,何だってできそうな気がする。


「くそじじい。しつこいやつだな。数で攻めたら勝てるとでも思っているのか。この家ごと吹き飛ばしてやることもできるんだが・・・・・・。もっとおもしろいことが出来そうだな」


そう言ったかと思うと,青い髪の男は姿を消した。辺りを見回してもいない。見失った。そう思った時には遅かった。髪を掴まれて首元を露にするように上に持ち上げ,そこに刃をたてた。

 その時,手の届きようのないはるか奥深くにある記憶がフラッシュバックした。こんな感じだったはずだ。目の前で大切な人が失われていったのは。少し力が付いたぐらいで何だってできるようなつもりになっていた。その軽率な気持ちが,またこうして大切な人たちを追い込む状況を作っている。いつだって,何もできない。目の前が真っ暗になる。意識よりも先に,固く目をつぶっていた。


「少しは変わったじゃねえか。もうあの頃のように目はつぶらないのか。」


背後にいる青い髪の男を見ると,その青い瞳はジャンの方へと注がれていた。


「もうおれは目をそらさない。大切なものはこの手で守り抜く。例えそれが叶わなくたって,その現実から,自分のふがいなさから逃げることはもうしない!」


ジャンは目を充血させながら,震える身体を抑え込むように固く唇を噛み,剣を強く握っていた。そして一歩前へとにじみ寄ろうとした瞬間,喉元をついていた刃が床に落ちた。


「ぐっっ,サイレントキリングの異名は顕在か。このくそアマがっっ」


お母さんがこの男の腕を支える筋肉の筋を断ち切ったのだ。いつの間に。そして,サイレントキリング? なんだそれは? 頭の中がごちゃごちゃになっていて整理のつかない間に,しゃがれた声が部屋中に響いた。



「一閃!!」


風を切る音がした。見えたのは,じいちゃんが剣を鞘に収めるところだった。気付くと,青い髪の男は肩口から血を流し,部屋の隅へと退避していた。じいちゃんがあいつを切ったのだと気付くまでに少し時間がかかった。じいちゃんは,あまりに強かった。



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