あれから2年⑥〜さよならじいちゃん〜
じいちゃんのあまりの圧倒的な強さに興奮した。それと同時に自分の力の無さを痛感した。でも,それは心地良いものだった。努力をすれば,じいちゃんのようになれるかもしれない。今はジャックベアをやっと倒せるようになったレベルだけど,自分の大切な人を守れるような力を付けることが出来るかもしれない。剣を抜くだけで雰囲気を変えられるような,そして,剣を振るえば状況を一変させるような力を手に入れることが出来るかもしれない。だって,じいちゃんの孫なんだから。
「ソラ,大きくなったのう。」
懐かしむようにこちらを見て,あごひげを撫でながら続けた。
「わしはもう行かなならん。お前はなんだってできる。ジャンと一緒に,この広い世界のすべてを見て来るのじゃ。そして,この世界を一本の軸に通せるかどうかはソラ次第じゃからの。わしはこの世界が大好きじゃ。あとは頼んだ。」
そう言うと,青い髪の男の方へと歩を進め,肩口を抑えて無抵抗の大男を軽々と持ち上げた。いつの間にか二人のそばにはブラックホールのような異空間への通路のようなものが出来ている。それはまるで入ったらこちらに戻ってこられないことを予感させる洞窟のようで,空気を構成する成分や密度が全く違うのではと想像させる不安感を漂わせている。あそこへ今からじいちゃんは入っていくのだろうか。大丈夫なのだろうか。始めにこの部屋に来た時も,あんな穴の通路からこちら側へきたのだろうか。さまざまな考えが頭の中を駆け巡るが,いくら考えたところで答えはじいちゃんに聞かなければ分からない。これからどこへ行くの,また戻ってこれるんでしょ,次はいつ帰ってくるの,いつからここへいたの,死んだって聞いていたけど本当はいきていたんだね・・・・・・。聞きたいことはたくさんある。だけど,結局聞けずじまいで終わってしまった。
「そうじゃ。言い忘れるところじゃった。わしの書斎の引き出し,まだ処分はしておらんかの? あそこにわしの日記がある。ほとんど残っておらんと思うがの。どこかのページに今この世界に起きていることのヒントが残っているはずじゃ。あとは頼んだぞ。・・・・・・みんな,会えてよかった」
そう言って穴に入ろうとしたじいちゃんはまた足を止めてこちらに振り向いた。そして,一瞬黙った後,口を開いていった。
「ソラ。お前はもうちいと自分に自信を持て。みんなに言うてある。こいつはこの世界を救う人間じゃとな。自分にはすごい力があるっちゅう自信が自分の力を存分に発揮させる栄養じゃ。ソラには自分は価値ある人間だと信じる栄養が足りとらんだけじゃ。栄養がめぐれば,大きな樹はしっかり根付きどんな風にも揺らがん。自分を信じるんじゃ。」
「それじゃ」と続けて名残惜しみもしない様子で通路へと入っていくと,その通路が消滅した。あまりにも非現実的なことが連続的に起きて別れを惜しむ暇もなかった。ふと見ると,お母さんは声を殺して泣いていた。
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