第47話 打開
荒木の離反は全く理解ができない。
こいつ逆張りしないと生きていけない生き物なのではないかと思うほどだ。
今回は、上杉当主の死の報の後であり、さらにはこちらが本願寺側に付いた毛利傘下の水軍を撃破したあとにこちらを裏切ったのである。
とはいえ、鞍替えする以上はそれ以前から通じていたのだろう。
ぼくと本願寺の争いはもうずいぶんと長く続いているのだから、突然思い出したように旗色を変えるのは不自然だ。
あるいは先の紀伊征伐、さらにその前のぼくが怪我を負った本願寺の攻勢の時にも何かしら裏で動いていたかもしれない。
荒木の本拠が近いこともあり、本願寺攻めに使っていたのだ。
想像に過ぎないが、織田側に付いてこっそり本願寺に便宜を図り致命的な状況を避けつつ織田に打撃を与える機会があればその情報を流していた、この度の水上の戦で織田側が勝利したことで本願寺が追い詰められたためについに表立って裏切った、とか。
荒木を説得しようと使者を出したが結局答えは得られなかった。
厚遇していた者の離反が続くのは都合が悪い。
戻る意思がない以上しっかりと始末をつけなければならないだろう。
さて、毛利の水軍を撃破したと述べた。
これは新兵器とも呼べる鉄甲船の投入によるものだった。
南蛮の船を参考にし、これまでの常識にない大きさの船に大砲を積み、さらに敵が使う炮烙火矢から身を守るために鉄の装甲を船に張り付けたものだ。
大砲とは鉄砲を巨大にしたようなものと思えばいい。南蛮の船の主力装備である。
その威力は南蛮船を沈めるためのものなのだから日本で使われている小型船にあたればどうなるかは想像に難くない。
大きさと威力の分、製造、運用にかかる費用も跳ね上がるのだが、織田はこれに耐えうるだけの経済力を持っていた。
相手の攻撃が通じず、こちらの攻撃は一撃必殺となると戦いにはならない。
実際にはやり方次第だろうが、少なくとも今回は本願寺への補給を妨害し、水上封鎖するに十分な成果を発揮したのである。
こうして本願寺の封鎖に成功したのだ。
もはや本願寺が食料を手にいれる望みはなくなる。
ここで、ぼくは本願寺に対し朝廷を通じて講和を申し込んだ。
もちろんこちら優位の講和になるだろう。
本願寺派であれ、おとなしくしているなら構わない。前例でも、叩き潰して武装解除させておとなしくするなら存続を認めていた。最終的には信徒まで根絶やしにするよりも講和した方がのちの統治が楽だからだろう。
それに、本願寺に呼応したかたちの諸大名が講和によっておとなしくなる可能性も考えていた。
実際荒木は本願寺についたわけだし、それによって戦線が混乱しているのも事実。ぼくも余計な被害は出したくないのだ。
しかし、この申し出は拒否された。
まだ望みがあると思っているのか。
やはり毛利をおとなしくさせる必要があるか。
そんな中、再度毛利水軍が攻撃してきたのでこれを打ち破った。
先の戦勝がまぐれではないと証明したのだ。
ここからしばらく、本願寺勢には絶望を味わってもらうことになる。
といっても直接何かをするわけではない。厳重な包囲の下で周囲の味方が減っていくのを見せるというだけのことである。
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