第45話 余談 将軍の在所、鞆
義昭さまが居を構えることになった備後国鞆は古くから発展してきた港町、すなわち商業の街である。
備後最大の港であると同時に、瀬戸内航路でも特に重要な港なのだ。
その歴史は古く、少なくとも万葉集に鞆を詠んだ歌が複数収録されている
鞆が重要な港であったことの理由の一つに潮待ちの港というものがある。
瀬戸内海では、潮が満ちる時に鞆に向かって水が動き、潮が引く時に鞆から離れるように水が動くのだ。
そのため、航海に都合の良い潮の動きを共に停泊することで待つのである。
なぜこのようになるかというと、瀬戸内海への入り口が東西に離れていることが一つの原因である。
要するに鞆沖が瀬戸内の東西の水がぶつかる場所にあたるのだ。
ほかにも、東西に島が多い地域があり航海上の難所となっていて、間に挟まれた比較的安全な地域であるということもある。
また、地形の都合、瀬戸内海は北岸沿いのほうが南岸(四国)沿いよりも近いうえ、本州側であるため最悪陸路が取れる。
結果として鞆は多くの船が停泊する港となり、すなわち人が集まる街として繁栄してきたのである。
そんな要所なので、時代時代の実力者の支配を受けている。
近年で言えば、大内氏の時代には瀬戸内でも有力な海賊、村上水軍に与えられ、直近では毛利が城を築いている。
また、足利の幕府の始祖、足利尊氏が新田義貞との争いの中、この鞆において院宣を受けたという。その結果いろいろあった末、足利の幕府が生まれたのだ。
そういう縁もあるので、義昭さまが住まうには相応しい場所であるともいえるし、それだけの要所を提供した毛利は義昭さまへの敬意を示したのだと見ることもできるかもしれない。
前線近くに置くことで国内への影響を抑えた向きもあるかもしれない。
何なら盾代わりに、これは考えにくいか。
備後国の中心地は芦田川をかなりさかのぼった場所にあり、つまり街道なども内陸を通っている。
鞆は独立した立地であり、海に囲まれているため、水上戦力の影響が強くなる。
毛利は周辺で最強と目されている村上水軍を傘下としており、先日も本願寺への補給を成功したことからもその実力は噂に違わないことがわかる。
つまり鞆は防衛しやすいのである。
また、何かしようと思えば水軍を経由する必要がある。
義昭さまは手紙をばらまいているようなので、輸送業者である水軍が手元にいることは都合がいいのだろう。
同時に水軍の監視下に置かれているとも解釈できるわけだが。
味方の間は勝手がよく、もし敵に回っても制御しやすい。先祖の偉人にちなんだ場所で縁もある。
良くも悪くも囲い込むのに都合がいい場所が鞆だったのだろう。
将軍と幕府を都合のいい神輿として使わなかった織田の失敗を反映した場所であると考えられるだろう。
この期に及んで本願寺側に付いたことからもわかるが、やはり毛利はぼくとは方向性が違うらしい。
やはり一戦交える必要はありそうである。
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