第44話 対応
紀伊は改めて叩く必要があるが、それはすぐではない。
ろくに道が整備されていないため大軍の運用に向かず、地の利も向こうにあるために被害を出した。
逆に数を生かせる場所まで出てくるようなら負けることはないだろう。
見張りを置いてにらみ合っておくとする。
上杉は能登越中加賀を勢力下にいれた。
和睦したとはいえ加賀や越中は本願寺派の支配にあった地であり、和睦したからこそ配慮する必要がある。
この地を支配するのは容易ではない。敵対した相手だ。それも中核を排除できていないのだ。
ひとまず警戒しつつ様子を見る方向で。
大和で背いた者は最終的に居城に火を放って自刃した。
なぜ裏切ったのか、もどってこないかと手紙を出してみたが無駄だったのだ。
浅井に裏切られ朝倉に敗北した時などの危地を共にした仲で義昭さまとの離別後もこちらについてくれたというのに。なぜ今さらこんなことになってしまったのか。
西、播磨や丹波・但馬へは、特に有能な部下二人をそれぞれ対応させている、のだが各所への援軍だったり本願寺への対応だったりで予定がだいぶ遅れてしまっている。
しかも片方は柴田軍に援軍に出して勝手に帰ってきた猿である。
とはいえ周りは敵だらけ、内側でやるべきことも多いため、当初の予定通りやらせるほかなさそうだ。
どちらにせよ、本願寺の抑えが先である。
海からの補給を許してしまった以上、どれほど田畑の収穫を妨害しても食つなぐことができてしまう。
うわさに聞いていた瀬戸内の水軍は手ごわいようだった。これにまず対処が必要だろう。
陸上は付城を増やし、急な動きがあっても崩れないよう兵を配置した。
先日のような被害を受けるようなことになっては困る。
まとめると、上杉はすぐには動かないだろうし、柴田が防戦に徹すれば時間は稼げるだろう。
紀伊はにらみ合いでいい。
毛利の兵とは互いにぶつかる前に敵がいるのでまだ猶予がある。
毛利の水軍と畿内以西の敵対勢力への対処が課題である。
水軍については手を打ってあるが、それとは別に地上で毛利を叩くために力を注ぐべきだろうか。義昭さまも本願寺も、直接的には毛利が庇護しているようなものだろう。
大軍をもって播磨を平らげ、そのまま毛利と決戦を、などと考えていたら部下たちに諫められてしまった。
焦りすぎであると。
そうだ、よくないことばかりではない。
朝廷はぼくをの官位と官職を引き上げ、右大臣などという大役を務めることになったのだ。
この状況下でも朝廷や陛下はぼくの味方なのである。
それはそうだ。
義昭さまは朝廷に協力的ではなかった。新たな大名が現れ義昭さまを担いで京を支配したとしても、朝廷がぼくが守っている今より良い扱いになるとは考えにくいだろう。
足利の幕府時代から三好に支配され、義昭さまの時代を経て今に至る。
その中で今こそがもっとも朝廷が朝廷をしているはずである。
一部には敵方に通じているものや日和見している者もいるだろうが、現実的にぼくにつく方がいいことははっきりわかることだ。少なくとも敵方からぼくと同等以上の待遇を用意すると言質を取れるまでは。
信忠も順調に出世してきている。
後継者として軍政両面で実績を積んできているのだ。
次の体制を考えていかなければなるまい。
そのためにも本願寺を、毛利を、上杉を、片づけなければならないのだが。
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