第43話 新たな包囲網

 お前らそれができるなら義昭さまとの決別前にやっておけば今頃天下は静謐だったんだぞ。

 などと思うくらいはぼくにも許されるだろう。


 義昭さまは備後の国、鞆という水運の要地に拠点を構え、毛利に上洛を助けるよう命じた。

 上杉が本願寺と和睦、武田と上杉の和睦を実現。

 これら大大名は皆、織田に牙をむいた。

 そのほか、紀伊や丹波、播磨などでも反織田のものが兵を挙げ、大和ではこれまで貢献してきた部下が寝返った。


 さすがは義昭さま、と言いたいところだが、実際のところこの反織田陣営の黒幕は本願寺だろう。


 上杉は本願寺派の一揆に悩まされ続けてきたし、毛利も内部に多くの門徒を抱えている。武田は窮地なので差し伸べられる手はなんであれ渡りに船だっただろう。

 義昭さまの扇動は、あと一押しをしたにすぎないと考える。いや、それでも結果に反映されるに十分なのだが。


 彼らはわかっているのだろうか。一宗派に戦を左右されることの恐ろしさを。

 利も理も命も捨てて人を怨恨の塊に変える者たちの醜悪さを。

 織田を潰してから考えればいいとでも? 仮にそうなった時にはもう、畿内は坊主に食われているだろう。

 戦に身を投じたいのなら、坊主をやめ武士として立てばよいものを。

 民心を安んずるためにある宗教と坊主が、自ら武器を取り信徒を戦に駆り出し命を散らせるのだ。戦のためといって重税をかけ従わなければ破門と脅し、証明できない死後の平穏を示唆し忍耐と命を捧げることを求めるのだ。

 宗教が、坊主が死ねという。民心を安んずるとは逆をいくものだ。

 宗教は戦に関わるべきではないのである。



 だがそうはいっても実際に動いた事実は変わらない。

 特に配慮してきた上杉と毛利が敵に回ったのは重大な事態だ。

 早速彼らの後ろの大名に協力、こちらを向いているうちに後ろから殴れるぞと呼び掛けたが、さて当てになるかどうか。


 とはいえこの苦境は以前とはまた違う。

 根拠地たる美濃尾張を任せられる者が居て、京との接続も比べ物にならない安定度である。

 外敵の脅威としては過去最大かもしれないが、内実ははるかにマシである。

 部下から裏切り者が出たことや、おそらくは公家衆にも敵が潜んでいることを踏まえてもだ。


 毛利は本願寺に物資を補給するために水軍を送ってきた。

 上杉は織田の縄張りになっていた能登に手を出して来た。

 武田は徳川と殴り合っている。


 本願寺の包囲をさらに固め周辺、特に協力が厚い紀伊を抑える。

 上杉へは柴田に援軍をつけて任せた。

 大和は信忠に任せた。



 結果、本願寺への補給阻止は失敗。周囲の田畑を刈り取ることを徹底させたが、これでは意味がない。水軍で対抗できなければならない。

 紀伊への攻撃は痛み分けの末降伏させた。しかしすぐに再挙兵する。

 上杉には敗北。到着時点で能登の織田派が駆逐されていたらしい。問題は無許可で帰ってきた猿だ。援軍として送ったのに勝手に帰ってくるとはどういうことだ。


 前途は多難であった。

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