第42話 異変
ぼくはまだまだ甘かったようだ。
いや、覚悟はしていたつもりだったのだが。
征夷大将軍と本願寺が秘めていた力を読み違えたのだ。
事は、京。公家衆の大規模な会合を持ったことから始まる。
いや、既に始まっていたのだがぼくはこの時には気づいていなかった。
今まで避けてきた朝廷の職としての仕事だ。
義昭さまを失って、新しく統治構造を作る必要ができた。
しかし、現状で朝廷が支配することは現実的ではない。現状と組織が乖離しすぎているのだ。
だが、これをなくすこともできない。幕府もそうだが、力で権威を排除しては、例えば直近では三好の支配と同じ結果を生むだろう。
皆がこの相手になら頭を下げてもいいかなと思う対象が必要なのだ。
相争う者が、上げた拳を収める名目のためにも。
これを失ってしまえば、戦乱は何十年も伸びてしまうだろう。
また、朝廷を直接権力を揮う機構とした場合、今の世相だと朝廷を攻撃するものが現れることは想像に難くない。
統治機構は朝廷とは別に、なおかつ朝廷と相互に権威と、権力すなわちその背景である武力を保証しあうことが理想なのだ。
万一統治機構が破れても、朝廷が残っていれば立て直すことができる。
統治機構は征夷大将軍による幕府がよかった。頼朝公以来の実績があったからだ。
だが義昭さまによってその権威は傷ついてしまった。ほとぼりが冷めるまでは採用するに値しなくなったのだ。
そうなると、新たな方法を考えるか、ほとぼりが冷めるまでの中継ぎが必要になってくる。
ぼくが、そしてぼくの後継者が未来永劫圧倒的な力を維持し続けることができるのでなければ、天下の静謐のために必要なことだった。
実際にぼくも負けてきたのだから。
そしてその翌日。
本願寺による大きな攻勢があった。
織田方は有力な部下に任せていたのだが、破られたのだ。主力武将も何名か討たれ、軍が崩壊し機能している少数、明智に佐久間が砦にこもったという。
さすがといえるが石山攻囲のために作ったほかと連携する前提の砦では長くはもたないのは明白だった。
救援要請を受けてぼくは自ら兵をかき集めて向かった。
緊急だったために多くの兵を集めることはできなかったが、数で劣る一揆衆に突入し砦の軍勢と合流、さらに内側から再突入して薙ぎ払った。
最悪ぼくが死んでも織田の家督は信忠が継いでいる。
もちろん死ぬ気はないが。まだ、これからなのだ。
ぼく自身負傷しながらも戦そのものには勝利し、部下を救うことができた。
野戦兵力を散らしてあとは、動員して遅れてきた兵を使って付城をさらに増やし、同じことが無いよう攻囲を強めるように命じた。
そしてそのあと知ったのだ。
義昭さまによって毛利、上杉をはじめとする大大名が敵に回ったと。
本願寺と連携してぼくを攻撃し始めたのである。
正直、どちらも友好的中立を守るものと思っていた。
紀伊を去り備後を拠点とした義昭さまにこれほどの求心力があるというのは誤算も誤算だったのだ。
二大大名と本願寺だけではなく、さらに広範に手紙がばらまかれている。
もう少し先ことだが、ぼくの部下となった者も裏切ることになる。
内政に朝廷とのやり取りで忙しい中、新たな苦境に放り込まれたのだ。
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