第41話 安土

 美濃尾張を譲った。

 信忠はよく治めているようだ。こうなるとぼくが居座らない方がやりやすいだろう。


 ぼくは拠点を移すことにした。

 場所は近江は安土山。

 美濃と京の間にあり、淡海(琵琶湖)の水運の恩恵も大いに受けることができるこの地に城と城下町を作る。

 軍事用の城塞ではなく、政治と商業のための拠点だ。

 淡海の周囲に軍事拠点や物資の集積地を配置しているので、淡海を支配できている限り緊急の状況にも融通が利く。

 その前提で、新たに作る都市に必要なのは世を治めるための機能なのだ。


 京と同じような発想である。

 京は防衛能力が低い。交通の利便性を優先したつくりだ。

 その京を本拠にしなかったのは、朝廷への過度の圧力を回避すること、策源地にして根拠地である美濃尾張との距離、敵対勢力との距離、淡海の水運力の活用などいくつかの理由がある。

 朝廷の後見として十分な力を示し、その力を維持する構造を作っていかなければならないのだ。


 新しい城と街を考えて作るの楽しい。


 ごほん。


 さて、朝廷を支えるのに必要な力は何か。それは経済力である。

 軍事力は前提だ。だが軍事力では朝廷の儀式などを実施することはできない。

 朝廷をちゃんと運営するためにはカネが必要なのである。

 

 壟断するのではない。ちゃんと運営してもらうこと。これが天下を整えるために大事なのだ。


 そして経済力を示すには大きな建造物を見せるのがわかりやすい。

 安土に作る城は大きなものとすることに決めた。

 次に街だ。

 安土山の麓に人を集め、商いをさせる。

 京に匹敵する、あるいはそれ以上の規模を目指すのだ。

 住まうものは労役他の税をを免除。

 市においては商売の安全保障は慣例の通りで、出身地による連帯責任の禁止はぼくの領内の市で進めている案件をより進めていく。

 これらに加えて街道を行き来する商人には安土に寄ること、そして一度荷下ろしすることを義務付ける。商人を街に留めることで一の活性化を図るのだ。

 新たに手にいれた既存の街ではその地の座を優遇したが、新たな街となる安土では往来の商人を優遇する。商人を定着させるためだ。

 座の商人については各々の拠点で活動しているのだから構わない。新しい街では区別はつけないが。ただ、軍事物資の馬座の権益は取り上げ安土で独占する。これは軍事上の都合であり、物流支配のためでもある。馬座を取り仕切る者たちは他の品も扱っているのだから我慢してもらおう。


 こうして定めることで従わない商人は取り締まることもできる。

 物流を把握することで領内の物資の動きがわかり、敵対勢力がうごめいていても見つけやすくなる。六角とか。


 うん、なかなかいい政策ではなかろうか。

 併せて進めている街道整備計画、実施済みの関所撤廃製作とも相乗効果を見込めるだろう。

 この方向で担当者と話を詰めていこう。

 担当者はもちろん地元出身のものと馬回、つまりぼく直属の信頼できる部下の二人である。

 その地に詳しいものに、ぼくの考えを汲めるものを目付を兼ねてつけるというのはよくやる手なのだが、なかなかうまく機能する。


 しかし、いや、街づくり楽しいなあ。

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