第33話 浅井と朝倉

 京を担当する総責任者となる部下を決め、かねてから進めていた浅井へのとどめとなる戦をすすめることになった。

 義昭さまと敵対したことで様子見をしている勢力もいるだろう。その隙をついて明確な敵を一つ落としておくべきだと。ちょうど準備も進めていたので都合がいい相手。それが浅井だった。


 佐和山、比叡山と浅井の手足を削いできた。

 湖上の物流も大方を抑え、小谷は限りなく孤立に近い状況だ。

 ここでとどめを刺す、とみせて浅井の同盟である朝倉を誘引、本拠ではなく遠征先で打撃を与え、おそらくは撤退するだろうから、その混乱につけこみ一気に越前に踏み込む。ついでに浅井を落としてしまう。

 つまり朝倉が本命の作戦だ。


 この作戦はおおむねうまくいった。

 ただ、部下の動きが想定より悪くかったため、ついかっとなってしかりつけてしまった。

 このところの出来事のため、気分が不安定であったせいだ。

 相手が朝倉と浅井であったこともあるだろう。

 義昭さまと別れることになった原因たちだ。そんな相手との戦いということで多少やる気が出て、空回りしたことはあったかもしれない。

 最終的にはどちらも片付いたのでよしとしよう。


 浅井、朝倉ともに、調略した元浅井、朝倉の者と譜代の部下を合わせて配置し、占領政策を実施させる。

 その地の事情に合わせて既存の権益を安堵する。寺社や味方についた豪族などには領地を、商人であれば座の権益を認め、税を緩和する。現地の組織を活用することがコツといっていい。既得権益を認められれば無茶な抵抗はしないものだ。

 ただ一部、贅沢品や軍需物資である馬の座に関しては統制下におくことにする。


 占領地などの不安定な場所はこの手に限る。

 多くの大名が成功させてきた実績ある手法である。

 人手の確保という意味でも有用だ。

 先人の知恵と実績にあずかりながら、必要な部分を抑えるのである。

 逆に安定していたり新しい場所であれば違う対応となる。適材適所、適地適応、臨機応変だ。


 一方で、人材確保の意味もあり、連帯責任の慣習を改めさせるよう進めていた。

 地縁血縁から解き放ち、ぼくの部下としての秩序に組み入れていくことで余計な一揆や団結、そして損失を抑えるのだ。

 ただこれは新しいことであるので、慎重に進めているものだ。


 ともあれ、浅井朝倉を抑えたことで近江一国を確保できたことに加え越前を支配下に置いた。

 しかしここは不安定な場所で、一揆衆の力が強かったり、内紛があったりと厄介事のにおいしかしない。

 まあ、細かいことは他の問題と並行して進めていくか。


 怨敵を排除して少し気分が上向いた。

 もっとも、その間に義昭さまの復帰の話が挙がり否定されたことで、どうにもしまらないのだけれど。

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