第26話 不和
比叡山は近江の国の要所であり、美濃と京を繋ぐ経路、そして京そのものを脅かすことができる位置にあると同時に、淡海(琵琶湖)水運の拠点を支配していた。
その上前回浅井朝倉側であることを身をもって証明した。
独自の武力もあり、宗教的な影響力もある。
古来朝廷に従わないものとしても挙げら続けている。
こんな勢力が居座っていては、織田のためにも幕府のためにも朝廷のなるまい。
というわけで焼いた。
門前町まで焼いた。
武家の戦いに関わったのだから武家の流儀で命を落とすこともあるだろう。
過去に幕府や管領も比叡山を焼いたことがあるので、こうなる可能性はわかっていたはずだ。
反対する者もいたが、必要なことだと押し通した。
金子を払うから和睦をとの使者も来たがこれも断った。カネが欲しくてやっているのではない。
焼き討ちは成功裏に終わり、淡海西南部を固めることに成功、これで京の守りがまた少し固まり、美濃と京の経路の安全性も増したことになる。
その一方で畿内の情勢はあまりよくなかった。
依然、争いが続いている。
それどころか、幕府内の状況もだ。
どうも、幕臣内で親織田反織田に分かれて対立しているらしい。
以前ぼくが幕臣の収入を用立てることを提案したことは述べた、
その代わり寺社や朝廷の荘園を横領することをやめるようにとも伝えていた。
どうやらこれが不満だったようで、ぼくを排除しようと動いている者もいるらしいのだ。
もちろんそれだけではないだろう。織田の力が頼りないと判断している者もいるに違いない。
実際のところ、幕臣が横領を行うというのは言語道断である。
それを防ぐために存在しているのが幕府なのだ。
だがその一方で、義昭さまはぼくが幕臣を賄うことをよしとしなかった。
幕臣が織田の臣となる、と懸念していたようだ。
その結果、義昭さまが朝廷と必要以上に関わらろうとしないこともあってか、横領を行う幕臣が後を絶たず、京にいると公家や寺社からの陳情が舞い込んでくる。
親織田といえる幕臣はぼくの提案を受け入れてくれており、ちゃんとした幕府を目指して共に頑張っている。
だからこそ、横領など幕府の威信を失わせる行為を行う反織田幕臣と対立するのだろう。
頭が痛い話である。ぼくの立場でこれ以上強く言うのは難しい。
義昭さまがうまくかじ取りをしてくれればいいのだが、その義昭さまもこの件ではぼくとは意見を違えているのだから。
義昭さまとの意見の相違はこれに限らなかった。
以前、徳川を呼ぼうとしていた義昭さまだったが、今度は武田を呼ぼうと言い出したのだ。
どうも幕臣からそういう提案が出ていたらしい。
義昭さまに吹き込んだ幕臣は織田に不満を持っている層だろうことはわかる。織田だけではなく、武田にも幕府を担がせようという魂胆が見える。
しかし武田にはそんな余裕はないだろう。
徳川と上杉に挟まれて困窮している状態なのだ。
幾度もぼくを頼りにする手紙が送られてきている。
こちらも手いっぱいでなかなか有効な手を取れていないことは歯がゆいが、自領と畿内が優先なのは仕方がない。
破棄された上杉と武田の和睦を再び結ばせる方向で支援を進めている。ここまでは義昭さまともぼくも一致するところだからだ。
ただ、義昭さまの狙いは本願寺との和睦にもあった。
武田と本願寺の顕如上人は縁戚にあるのだ。
だからこそ上洛させれば本願寺と織田の和睦ができるかもしれないと。
しかし、再三言うが今の武田にそんな余裕もない。
さらに言えば織田としてもここまで来て他者の介入が入るのは避けたい。頭が二つあればもめる原因になるのは歴史が証明している。
ひとまずこの話は妥協線までは進めることで合意したが、反織田の考えが甘い幕臣はなんとかしないといけないかもしれないな。
幕府はちゃんとしないといけないのだ。
厳しさは必要だが公平さもなければならない。
ともあれ、しばらく内政外交戦争いずれも地固めを進める時間となった。
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