第27話 理想
兄弟の喧嘩は、親がちゃんと導けばあまり起きなくなるし、仮に起きても親が仲裁すれば仲直りできるものだ。
村の中での喧嘩は、名主がちゃんと導けばあまり起きなくなるし、仮に起きても収まるだろう。
村同士の諍いは領主が。
領主同士の諍いは大名が。
そして大名同士の諍いは将軍が。
このように、上位者がちゃんと導くこと、そして仲裁することで、人は平和に暮らすことができる。
逆に、そうしなければどうなるかといえば、殺しと報復の無限連鎖である。
飢えれば隣から奪うのは生き残るために当然のことで、個人でも、村でも、大名ですらこれを行う。
奪われないためには力が必要で、その力で奪ったものに絶対に報復するという断固たる意志も必要だ。
そのために集まったのが惣村であり、誤解を承知で言えばそれらが集まったのが大名だ。さらには寺社すら武装化したのがこの日本の現状だ。
ただ武力があればいいというわけではない。夜討ち朝駆け闇討ちだまし討ちと手練手管を使えば強弱はひっくり返る。
こうして戦が繰り返されるのだ
ちゃんとしているということは、そうはならないということである。
より多くのものが認める権威が正しく運営され、とそれを支える武力が目を光らせることで、下位の者が安心して生きることができるようになる。
つまりは幕府とちゃんと運営すれば大名を治めることができる。
幕府の権威の源である朝廷もちゃんと運営されなければならないだろう。
ちゃんとするために必要なのはひとつには多くのものが納得する理。
そして前例の踏襲だ。
昔からそうしている、という実績に対する安心感は大事なことである。
また古くから続いているということは必要であり意味があることなのだ。
そして幕府にしても、朝廷にしても、その昔から、という実績がすなわち権威を持っていると考えられる。
現状が上手くいっていないのは、戦乱の中で昔から続けれれていたことが途切れてしまったことにも原因があるはずだ。
即位の礼、譲位などをはじめとする様々な儀礼の復活をぼくが後押しするのはそのためで、本来これを支える幕府にはちゃんと仕事をしていただきたい。カネは僕が用意するのだから。
そして朝廷という前提があって、幕府が力を発揮できる。
その役目は大名たちへの指導と仲裁、そして場合によっては懲罰。
幕府がちゃんとする、役割を全うすることで大名が幕府を認め、従うのである。
役割を果たさず、私利私欲に走っていれば、大名は認めないだろう。上位者と認めてしまえば理不尽に奪われることを恐れなければならなくなる。
幕府は公平でちゃんとしている限り守ってくれる、そう思わせなければならない。
そう思わせれば自発的にちゃんとするようになる。
だからこそ、幕府はちゃんとしなければならないし、幕府をちゃんとしなければならない。
武力は必要だが武力だけではいけない。
従おうという判断をさせるためには信用が必要で、それはちゃんとしないと手に入らない。
ちゃんとするための多くのものが認める枠組み、そして実績をかさねること。
大名は武家であるからその棟梁たる将軍、幕府が枠組みとなり、公平な沙汰を重ねることで実績が積みあがっていくのだ。
同時に、そうである、という風聞も重要である。
実態と風聞が違うことはままあることで、ちゃんとしているのに悪い噂が立つこともある。
だがちゃんとしていない上に隠すこともしないのであれば、これも悪い噂につながるのは当然の話。
よい風聞を耳にし、それを確かめ、ひとまず信用してみるか、というところから始まるのだ。
翻って今の幕府はどうだろうか。
残念ながら失格と言わざるをえないだろう。
まず幕臣の横領問題が論外だ。
幕府の権威を保証する権威、朝廷への態度もよろくしくない。
幕府の役割が果たせていない。
幕府が力をつける必要はある。だが、それは同時にちゃんと幕府として機能して風評いや名声を獲得しながら出なければならない。
悪評は力をもって支えるぼくが受け、幕府は清廉であるべきだった。
畿内の混沌の一端は幕府にある。
敗北によって武力の重しが軽くなったことはあるだろう。
だが味方だった勢力が容易に裏切るというのは。
そして幕府内での争いだ。
これを突き詰めると、一部の幕臣、義昭さまに侍るものに行き当たる。佞臣、奸臣と呼ばれる類のものだ。
義昭さまについてあ式風聞が流れているのも、ここに行き当たるのだ。
義昭さまは出家していたので武家の流儀を助言する者が必要だった。あとはわかるだろう。
彼が、彼らが、ちゃんとしないからこうなった。
ほらまた、一つ、裏切ったという報告が。
武田が裏切ったらしい。
武田?
は?
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