第25話 畿内情勢複雑怪奇

 気づけば、幕府陣営と阿波三好陣営の中身が入れ替わっていた。

 わけがわからない。

 畿内情勢は複雑怪奇である。



 ぼくが足元を固め直している間、畿内は任せろと言っていた義昭さまは精力的に味方を増やす努力をしていたそうで。

 その成果として、多くの味方を得た。

 阿波三好側についていた畿内の大名を味方につけることに成功したのだ。


 しかしその大名たちは、幕府側についていた大名たちと長く敵対していた。

 三好が天下を差配していた時代からの因縁である。

 畿内には似たような対立が数多くあるのだ。

 源平の昔から、様々な対立があり、古の恨みから近年の利害の不一致まで諍いの根はいくらでもある。


 幕府がこれらを抑え、仲介し、戦に発展することはない。古今の事情に通じ、両者の妥協を引き出すのだ。そしてそれこそが幕府の仕事であり、ぼくが幕府として動けない理由でもある。地方大名の家臣の家臣の家にはそういった事情の詳細まで伝わっていないため、機微がわからないのだ。故に畿内は複雑怪奇。

 幕府がちゃんとしていれば、うまくいく。

 だが、幕府という重しがなくなれば、それぞれの事情に従って戦いになる。

 そして、今の幕府は。


 義昭さま、任せろって言ったじゃないですか……。


 いや。

 幕府を支えるぼくが負け続けたせいか。

 幕府対反幕府ではなく、幕府を言う重しが軽くなったことで各々の事情に正直になったとでもいおうか。

 一言でいえば戦乱である。


 ぼくと義昭さまが、幕府が、ちゃんとできていれば避けることができたであろう現実がまた、現れたのだ。


 それもこれも坊主が武家の戦に顔を突っ込んできたからだ。

 それがなければ時代が巻き戻ったかのようなことにはならなかっただろう。

 民衆を安んずるための宗教が戦乱を呼んだのだ。


 だが、弱音を吐いていても、嘆いていても、仕方がない。

 一つずつ片づけていくしか現実をよくする方法はないのだ。


 だから比叡山を焼いた。

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