第23話 げんき

 元亀元年。

 義昭さまが将軍に就任してから改元したこの年は意気揚々と始まり散々な終わりだったと言えるだろう。

 改元自体にも手間取っていたので、実は始まる前からパッとしないといってもいいかもしれない。幕府と朝廷にカネがなかったことが原因だったらしく、ぼくがカネを出すとすぐに話が進んだのだが。義昭さまはこういうところ、なんというか雑で、仕える先である朝廷を軽く見ている節がある。


 ともあれ、そんな事情があったうえで、義昭さまも、これはまた改元した方がいいかもしれないなとぼやいていたほどの元亀元年だった。

 改元費用を出すのはぼくなのだが。


 四月から朝倉と戦をはじめ、十二月に全面降伏に近い和睦。

 その間にあった事件はひどいものだった。


 対朝倉は織田が敗北。勅命かつ幕府が間に立っての和睦で、織田が決定的な譲歩をする形であった。

 比叡山は朝倉と組んでいたのでともに和睦した。

 阿波三好とは和睦。幕府側についていた三好本家が仲介をしてくれた。

 六角とも和睦。ここはどうせまたなにかあれば蜂起するだろう。

 武田上杉の問題は、義昭さまとともに再度の和睦を両者に求めている。

 本願寺及び一揆勢力とは和睦できていない。考えておくという返事で止まっているらしい。

 ここは未だに何を考えているのかさっぱりわからない。

 もしかすると門徒を扇動しすぎて取り返しがつかなくなってしまったのではないかと邪推したくなる。



 と、いうわけで危機は乗り越えた。

 しかしこれらは一時のものだ。敵も味方もそうわかっているだろう。

 来年もまた戦いの年になることは予想できていた。

 ぼくは美濃で必要な準備を進める。


 今回はぼくが貧乏くじを引く形で始末をつけた。

 織田が悪い。そういうことになっている。

 やむを得ない選択だったが、失態が続いていることも確か。実際失ったものは実質的にぼくの面子くらいである。

 これはぼくが、織田が解決しなくてはならない問題だ。

 幕府の信任に耐えうると証明しなければならない。

 幕府に最も忠実な大名が役立たずだ、などと世間に思われてしまえば、幕府の軽重を問われてしまう。


 ここからどう巻き返していくか、それがぼくの今後の課題なのだ。

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