第22話 敗北
今の状況。阿波三好、摂津勢、石山本願寺、比叡山、浅井、朝倉、長島一揆、六角に囲まれ、懐の中まで敵の自由にされつつある状況だ。
敵は時機を合わせて攻撃をしてきている。同時に相手をすることは現状の幕府の戦力および立地では不可能だ。
更に戦費についてもすでに怪しくなってきていた。
このままでは確実に幕府は敗北する。そこまで追い込まれてしまったことは認めなければならない現実。
だが、これらの勢力は一丸となっているわけではない。浅井朝倉と六角の連携が完全ではなかったように、付け入るスキはここにある。
各勢力と単独和睦を行う。
この際手段は問わない。既に負けた戦いを多少なりともマシな方へ持って行くのだ
現状はこちらの急所を四方から攻撃されているが故の苦境なのである。
一つでも二つでも和睦に応じれば。
そして、戦線を整理して各個撃破することができれば、十分以上に戦える。
少なくとも、現状より悪くなることはない。商人の言う損切りというやつだ。
義昭さまも同じような結論に達したようで、つてを総動員して和睦を模索し始めていた。
成算はないわけではない。
例えば、浅井朝倉。
浅井も朝倉も、四月から戦い続けている。多くの武将を失っているし、兵糧やカネの負担もまた蓄積している。ましてや現在は遠征軍。
同じ期間戦っている織田が苦しいのだから向こうも苦しいはずである。
まして、経済力では織田が勝っているのだ。
更に織田は戦争を継続するために軍制を整えてきた。
幕府を支える覚悟をしてきているのだ。
ようするに、浅井も朝倉もそろそろ限界のはず。
そこでこちらが和睦を申し込んできたとしたらどうなるだろうか。
喜んで飛びつく、とは思わない。だが、考慮の余地はあるはずだ。
だがもう少し決定的な後押しがなければ、足りないのではないか、とも。
このとき、義昭さまから提案があった。
織田が、朝倉に、降伏しろ、と。
幕府が、ではない。織田が。
和睦ではなく降伏を。
いや、正確には実質的な降伏であり和睦だ、と義昭さまは言う。
実質的な降伏、つまり織田は敗北し、朝倉は勝利する。
戦に勝ったなら兵を退く。
いや、朝倉だけでもいいのだ。浅井は本拠の目の前までこちらの手が伸びているのだから、朝倉が引けば一緒になって引く。単独で戦えるほど余裕がない。
朝倉と浅井がいなくなれば彼らを匿っている比叡山がこちらと対立する意味もなくなるだろう。
京を脅かす厄介な敵がまとめて片付くのだ。
畿内勢力については任せろ、と義昭さまはおっしゃった。
和睦を引き出す自信があるようだ。
ただ、そのためにも、幕府が頭を下げるわけにはいかないと。
だから。
この度の戦い、織田と朝倉の私戦として扱い、幕府がこれを仲裁するという形で始末をつける。
これが義昭さまの提案だった。
朝倉との戦は、織田と朝倉の私戦だった。
幕府と朝倉の戦いではなかった。
頭を下げるのは織田、つまりぼく。
幕府は両者の和睦を斡旋する。
詭弁だ。しかし、押し通せる目はある。
再度言うが、朝倉も厳しいはずなのだ。冬になり雪が降ればさらに。雪で後方と遮断されてしまえば身動きが取れなくなる。
有利な条件で戦にキリをつけられるなら、呑み込むだろう。
戦を続けても得られるものはなく、共倒れなのだから。
内外への面子も、将軍という上位者を尊重したという形であれば収まりがつく。
ぼくが泥をかぶればうまくいくのだと、義昭さまは言った。
この年の終わり、ぼくは朝倉に降伏した。
織田の大敗北であった。
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