第20話 もっともっと包囲網

 本願寺の決起、浅井朝倉の侵攻。

 明らかに両者は手を結んでいる。

 ぼくに情報が届いたのが二十二日だが、浅井朝倉の侵攻が確認され、他のはもっと前であり、少なくとも十六日には交戦している。

 攻勢の準備は一日二日でできるものではない。

 予定通りの行動というわけだ。



 気にくわない。

 実に気にくわない。

 だが現実だった。


 淡海西岸を南下してきた浅井朝倉に対し、命を賭して時間を稼いでくれた配下たち。中にはぼくの弟も含まれている。

 命を失った彼らには報いてやらないと。


 さて、本願寺派の一揆衆による妨害を受けながら義昭さまとともに京へ戻ってから、浅井朝倉への逆撃をしかけることになった。

 淡海東岸にも戦線があるためか、時間をこそ重視したせいか、京を脅かす敵の数は思ったよりも少なかったらしく、織田軍が接近すると、比叡山に逃げ込んだ。


 あろうことか、比叡山にである。


 あまりの事態にぼくはまた仰天した。

 浅井朝倉が比叡山に逃げ込んだこともそうだが、比叡山がそれを受け入れたことにもだ。


 比叡山この日本第一といってよい寺院であるが、自前で戦力を持つ勢力でもある。

 断ろうと思えば断ることができたはずなのだ。


 であるのに、幕府に敵対する浅井朝倉を受け入れる。つまり比叡山も幕府に敵対したということだ。

 そして幕府を敵に回すということは朝廷を敵に回すということでもある。


 たしかに比叡山の山法師といえば古くから朝廷に対しても無法なふるまいをしてきた輩だが、武士同士の戦いにこうも関わってくるものか。

 どうなっているんだ。


 いや、それよりもこれをどうするか。

 下手に踏み込むわけにはいかない。

 最悪比叡山を焼くことは選択肢の中にある。前例があるからだ。

 室町将軍や管領が行ったことだ、義昭さまとぼくが絶対にやってはならないという方はないだろう。

 だがそれも、最低限段取りを踏む必要がある。

 幕府がそして幕府の委任を受けるぼくが悪逆非道の徒という風評を受けることはさけるべき。厳しい統治者であればまだいい。何をやるかわからない恐ろしい何かとなってしまうと、ますます離反や敵対が増え事態が悪化するだろう。


 ぼくはひとまず比叡山を包囲する指示を出した。

 即座に攻め込むのはマズいが逃がすわけにもいかない。

 延暦寺と交渉を持ち、同時に最悪の事態に備え準備を――。



 そこでさらに新たな報告が入る。


 京の都にて徳政一揆が発生。

 伊勢長島において本願寺派による一揆が発生。

 徳川軍、近江で足止めを受ける。

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