第18話 石山本願寺
石山本願寺。
この先、ぼくの宿敵となるかの勢力が、突如幕府軍を攻撃した時、ぼくは仰天した。
意 味 が 分 か ら な い。
浅井が裏切ったことと同じだ。
いや浅井よりはマシか。
何が連中を反幕府に、それも武力蜂起に駆り立てたのか。
石山本願寺は山科にあった頃にも門徒を扇動し暴れたことがあったのだが、その時は実権を握っていた武家によってお仕置きされている。
それからというもの、幕府に、そして時の権力者に従順だったのだ。
それこそ幕府を傀儡にしていた三好に対しても。
……それかな?
いや、以前、義昭さまが三好に通じていないか確認されたときには通じていませんと丁重に返事があったと聞いている。
それに今の天下の実権は幕府のものであるのだ。
そもそも、世俗の権力には従うべしという教えを信じているはずの連中だ。
その頭目が幕府に攻めてくる? 自ら刀を取っていたのを見たという者もいた。
何があったらそうなるんだ?
矢銭を徴収したことだろうか。
だがこれは前例もあることだ。
かつては幕府からの命令に対し、本願寺は頭を下げて銭を差し出した。
だいたい石山は畿内でもまれにみるほどにぎわっている街なのだから、多少の銭など大した負担でもあるまい。
上洛の戦の際、寺内町を焼いたことだろうか。
しかしあれは戦の常であり、焼いたのは本願寺に限らない。それに石山本願寺が三好寄りの態度を取っていたこともある。
キリシタンを優遇したことだろうか。
あれは義昭さまがかつての三好の政策を打ち消すために布教を許したものだった。
ぼくもこれにならって宣教師とやらに面会し、少しばかり話が弾んだ。
だが別にこれをもって本願寺派を弾圧したわけでもなければ、あくまで布教を許した程度のことである。優遇と表現しはしたが、せいぜい同じ土台に載せた程度のこと。
他の宗教の布教が気にくわないなら自分ところの布教に力を入れればいいだけのことだ。
近くで戦をしていたことだろうか。
今回、阿波三好が築城した場所は石山とほど近い場所であった。
脅威に思ってもおかしくはない。
だが、だからといって武力蜂起に踏み切るだろうか?
もっと先にやるべきことがあるはずだ。
重要な武装蜂起に参加した門徒の多くは武士ではないのだ。
一揆衆とも呼ばれるが、彼らの多くは本願寺派の寺に集まる農民である。
この時代であるから農民が単純な弱者であるとは言わないが、戦うことを幼いころからたたき込まれてきた武士とはやはり違うのだ。
そういう者たちを、死地に送り込む決断。
本当にさっぱりわからない。
結果から言って、阿波三好との談合によるものだったのだろう。
義昭さまの追及にやってませんと答えた裏でつながりを保っていたのだ。
逆に言えば全く予想していなかった事態である。
幕府軍はまたもや窮地に立つこととなった。
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