第17話 包囲網
摂津勢は先の義昭さま襲撃に際して、特に奮闘した勢力だった。
義昭さまも御喜びだったし、ぼくもすごいすごいと褒めたたえたものだ。
その摂津勢が阿波三好についた。
どうやら摂津勢の中心である家の家督について不満があった者がいて、阿波三好に内通。当主を追放して相続を宣言し、さらに阿波三好を引き入れたとのこと。阿波三好は摂津に城を築き、やる気満々である。
何を考えているんだこいつは!
いや、それは、家督争いなど戦乱の時代において日常茶飯事に行われている。
ぼくもそうだった。
だがこの状況で。
義昭さまを守り幕府を盛り立てるために一致団結すべき時に、そんなことをやっている場合か!
何か主義主張があって阿波三好についたのならまだいい、いやよくはないが。
せっかく義昭さまのおぼえめでたく、これから家が繁栄していくだろうときに、わざわざ家督のために裏切るとは!
家督を得るために家が失われたらどうするつもりなのか!
これだから天下は戦乱が続くのだ!
こういうことをなくすために、ぼくも義昭さまに尽くしているというのに!
いや、わかっているとも。
これも、ぼくが越前で負けたことによる影響なのだ。
その上で織田軍が浅井朝倉との戦いに注力するため畿内から撤収した。
義昭さまと、信任いただいているぼくの軍事力に不安があるから乗り換えた、わかりやすい話である。
こういう輩を叩き潰して、名誉を挽回し、幕府は盤石だと示さなければならない。
姉川の戦いの後処理を済ませつつ、ぼくは軍を再編し、近江、美濃の守りを部下に任せた上で十分な数の遠征軍を編成、畿内の幕府側の大名と合流した。
これが八月。
朝倉攻めからはじまり、ずっと戦い続けであるがここが踏ん張りどころだろう。
この戦いの鍵は阿波三好が築いた城の攻略。
同時に、これ以上の離反者を出さないこと、そして離反したものや敵を調略し還すこと。
裏切る者は状況が変われば再度裏切る。
また、織田軍がいないから動いた者は織田軍が帰ってくれば揺らぐはず。
背後に浅井朝倉が動いていることも間違いなく、次の戦いも見据えなければならない状況だ。
畿内の戦であることで義昭さまも援軍に来てくれた。
幕府軍合わせて約三万、相手は一万に満たない。
まず負けることはない戦力差である。
着実に勝ちを拾い、幕府健在を示すべし。
そして投降者も出はじめ、周辺の城も落とし、敵の主力の居城を囲み順調に事が運んでいる、いや圧倒的有利な状況、勝ったな!
と思っていたところで。
石山本願寺が武力蜂起したのだ。
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