第14話 不穏

 浅井への報復攻撃は既定路線だった。

 だが妹婿であり、これまでも協力してやってきた相手である。

 なんとか回避できるように手を尽くした。

 しかし、本人がもはや是非もなし、という態度ではどうしようもない。

 義昭さまの、幕府の、朝廷の、面子を潰したのだから、生半な理由では許されなかっただろうが、それでもどうにかしたかった。

 でもダメだ。


 こうなれば心を鬼にするしかない。

 同じ相手に二度続けて負けるわけにもいかないし、今度も負けられない戦いだ。

 前回は裏切りの奇襲、そして補給線を脅かす立地の都合で撤退した。

 今度は正面から当たる。

 前回も負けられない戦いだったが、今回は別の意味でもっと負けられない戦いだ。

 なんといっても、義昭さまが出陣なさるのだから。


 と思っていたのだけれど、義昭さまの出陣は取りやめられることになる。


 理由は、ぼくが前回の朝倉攻めを率いたことと同じ、いや、より深刻化したことによる。

 つまり畿内情勢が朝倉攻め前よりも不穏になったことだ。


 ぼくの敗北によって織田、ひいては幕府が舐められたこと。

 もともと、有利な方につく、都合のいい方につくというのはこの戦乱の時代を生き残るための術である。

 だからこそ浅井の謀叛は理解できないのだが……。

 万全と思われた朝倉攻めでの敗北、そのうえ味方だった浅井が敵に回った状況を見て、味方は動揺し中立は去就を考え、敵は勢いづく。

 この状況下で将軍である義昭さまが京を離れるのはあまりに危険だったのだ。

 最近まで阿波三好の勢力下だった畿内である。

 今の状況は狙い目だろう。

 裏切るはずのない浅井が謀叛したのだ。


 疑念を持ってみれば皆怪しく感じてしまう。

 こうした状況の変化で、京を空にすることはできなくなったのだ。


 京を守るのは将軍の務めである。

 京が攻められる恐れがある以上、北近江から越前まで浅井や朝倉を攻めるための遠征に出かけているわけにはいかないというわけだ。


 なので結局浅井朝倉に対してはぼくが、義昭さまは京を守りつつ離反を防ぎ味方を増やすための外交交渉を主に行うことにきまった。


 避けるべき二面作戦。

 しかしこの状況ではやむをえない。

 幕府の力が天下をけん引できるだけのものだと、名誉挽回しなければ動揺は収まらないだろう。


 そう考えれば、今回は失敗の後という意味でも前回以上に勝たねばならない戦いとなるだろう。

 しかし、二面作戦となったため、使える戦力が限定されてしまった。

 どうしたものか。今回使える兵力のみでは万全とはいいがたい。

 できれば使いたくない手段を使うべきか。

 ぼくは悩んだ末、筆を執った。



 徳川。

 畿内で戦うにあたり、背中を任せていた彼らに援軍を依頼することにしたのだ。

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