第15話 徳川

 徳川は、厄介な同盟者だ。

 誤解を承知で一言でいえば、野心が強すぎる。


 現在東方面について、織田は徳川、武田と同盟している。

 徳川とは、今川からの独立の流れ利害が一致したことで。

 武田とは、尾張統一時に領を接した際から友好的な付き合いができていた。

 諏訪勝頼にぼくの姪を嫁がせたのだ。

 さらにのちには武田の姫をぼくの嫡男信忠の嫁にもらう形でさらに関係を強化している。


 徳川、武田ともに今川を攻めるために背後を安定させたいという意図があった。

 織田も美濃、上洛と戦が続くことが決まっていたことで、利害が一致したのだ。

 同時に、徳川武田間もまた今川を共通の敵として利害が一致していたことで、連携していた。


 しかし、その今川攻めの中でちょっとしたいさかいが起こる。

 これは武田側の失策たっだのだが、即座に武田からは謝罪がなされ、またぼくに対してもとりなしを依頼する手紙が送られてきた。


 しかし徳川はこれをはねのけ武田に対する嫌がらせを続けたのだ。

 武田がかなり譲歩した対応をしていたのだが、しかし徳川は受け入れなかった。


 織田は同盟者としては両者が争うことは本意ではない。

 ただ、徳川に対し、織田はあまり強く出られない事情があった。


 単純な話、立地上徳川が敵に回ると致命的なのだ。

 美濃攻め当時からこちら、常に敵を抱えている織田にとって、徳川は脅威であったのだ。

 本拠を尾張から美濃に移した理由も、一部はそこにある。もちろん大きい部分はより京に近づくためであったり、制したばかりの美濃を直接統治し万一の返事に対応しやすくするためではあるが。


 ともあれ、徳川を抑えにくいことで、時とともに武田の困窮が進む。かの国はもともと周囲に敵が多すぎるのである。

 ぼくと義昭さまにとっても武田が潰れるのは不利益であるため、武田の宿敵である上杉との和睦を斡旋した。これで徳川に押されてしまっても、上杉との関係が改善すればまだ持ちこたえられるはず。


 ただ、徳川はそういう状況をわかっていて動いている節があった。

 そういうところが油断できないと思わせるのだ。


 この状況で援軍として徳川を呼ぶとまた一つ徳川への借りができてしまうことになるだろう。

 ただ、その一方で徳川を一時的に武田の近辺から引き離すこともできるし、顔を合わせればそれとなく窘めることもできる、だろう。

 今の幕府と織田の苦境を目の当たりにすれば、徳川も配慮してくれる、と思いたいのだが。


 どうだろうなあ。戦力としては期待できるんだがなあ。

 できれば選びたくなかった選択肢を取ったことで弱気になっているかもしれない。

 ぼくは気合を入れなおした。

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