第12話 裏切り

 は?


 なにいってるんだこいつ。


 報告を受けた時、ぼくはまず、そんなわけないやろと否定した。

 次に報告者を疑い。

 最後に心の底から驚いた。






 朝倉攻めは、若狭平定から始まった。

 義昭さまの妹婿の国であり、京がある山城の隣でもある若狭の国が乱れているというのは幕府の面子としても、義昭さまの情としても不都合である。

 であるから、幕府の力を結集して兵を起こし、遠征となった。

 とはいえ、京の守りを軽んじることもできないので、主力は織田軍、これに幕臣に皆さんに公家の方々も参加した。名目も実質も、幕府の軍である。

 もちろん軍を率いる指揮官は、かねてから調整していた通り、ぼく信長だ。

 義昭さまの代理として軍を率いるという名誉にして重大な仕事である。

 更には出陣にあわせ、朝廷が戦勝祈願をしてくださったのだ。

 つまり幕府軍にして実質の官軍。

 もはや負けるはずのない戦いとなった。


 そして若狭については予定通りに滞りなく始末をつけることができた。

 幕府軍の威容を見た反抗勢力がごめんなさいと謝ってきたからだ。


 だが、この遠征はここからが本番だ。

 脚本としては、若狭を混乱させていた黒幕が朝倉であるということでこの軍を越前朝倉攻めに向けるというもの。

 これまで何度も述べてきたとおり、朝倉攻めは予定通りの動きであり、そのために十分な備えはしてある。若狭攻めにしては過剰な兵力もそのためだ。


 わざわざこのような遠回しな芝居をした狙いとしては、一つには朝倉の油断を誘い、一気に攻めるためだった。

 とはいっても隣の国を過剰な戦力で攻めているのだから朝倉も警戒していないわけはない。

 なのでもうひとつの、名分を得るためということも重要だった。


 朝倉は義昭さまに、敵対的な行動をとってきたけれど、しかし表向きはしらぬ存ぜぬを通してきたのだ。

 これを征伐しようというのであれば名分が必要。そのための一連の流れなのである。


 将軍である義昭さまでも、いや、将軍であるからこそ、風評や世間体は気にしなければならない。

 そのあたりをちゃんとしなければ、下のものがついてこないからだ。

 正しく天下を静謐に導くためには威風堂々としていることが必要なことなのである。

 策謀だとか後ろめたいことは臣下がこっそりやるべきことだ。もちろんやらないで済むならそれに越したことはない。

 ただ、状況がそれを許さないことはある。

 それでも、天下人である義昭さまがそういうことに関わるべきではない。



 さて話を戻そう。

 幕府軍は若狭を平定し、越前へ攻め入った。目的は当然朝倉を下すことだ。

 戦力は十分、名分もあり、士気も高い。

 勝てる戦いだ。


 そう思っていたところに報告が届いたのだ。


 妹婿の家である、浅井が裏切り、攻撃を仕掛けてきたと。


 何が何だかわからなかった。

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