第11話 伊勢攻め
朝倉攻めが、義昭さまの城の完成を待って行われるということが決まった。
越前朝倉は義昭さまの上洛に非協力的だったこともあるが、義輝さまの妹婿の家である若狭武田の内乱に関与していたのだ。また、つい先日の襲撃に参加していた甥っ子斎藤とも縁戚で、襲撃への関与も疑われた。さらに義昭さまが越前にいたころにもなにかあったらしく、おまけに織田とも折り合いが悪い。理由は様々に考えられるがひとつには織田が義昭さまの上洛を成功させたこともあるだろう。
ともあれ、義昭さまの将軍就任のお披露目に際して朝倉をそもそも呼ばなかったから幕府と朝倉がぶつかるのは既定路線だったといえる。
朝倉との戦は必至とはいえ、朝倉を攻めている間に、また阿波三好などの敵勢力が攻めてきてしまったらえらいことだ。
なのでしっかり防備を整えてからということになったのだ。
さて、朝倉を攻める前に片づけておくべき問題がいくつかあった。
まず南近江の六角。
こいつらは正面戦闘でなら負けないと思うのだが、ただただしつこくしぶとく抵抗してくる厄介な連中だ。
とはいえこれは急いで片付くものではない。言った通りしつこくしぶといのだ。
だから、部下にじっくり取り組ませている。
本題だが、ここで決着しておきたいものというのは美濃戦の頃から続いていた伊勢攻めであった。
大方を部下に任せつつ、必要に応じて支援をして攻略を進めてきたのだが、徐々に相手が拡大してきたのだ。
はじめは美濃攻めの不安要素を取り除く必要性によるものだった。
割拠する小勢力を、美濃攻め、そして上洛に横やりを受けないように抑えることが目的だったのだ。
しかし、その結果北伊勢一帯を制圧したところ、今度は中伊勢の勢力と接敵した。
このころになると、ぼくとしても伊勢の経済力を手に入れたいという意図も含み始める。
幕府、そして朝廷を支えるためには、カネがいくらあっても足りないのだ。
ちゃんとした幕府と朝廷を再興するためには予算不足で途切れた儀式なども復活させる必要があるし、以前から陛下の譲位についての打診も内々に入ってきている。譲位するということは、上皇になるということで、これは天皇とは別に同等の環境を整えなければならないのだ。
つまりカネがかかる。
そのせいで何代も前から譲位できない状況が続いていたそうで、今となっては上位が悲願なのだと。
そんなことを聞かされては何とかしたいところだが、しかし織田も無限の予算があるわけではない。
しかし伊勢を取ることができれば、尾張と合わせ伊勢湾の利権をまるっと確保できるので若干の余裕ができるはずだ。それだけで足りるのかといえばはっきりとは言えないが今よりましになるのは間違いないわけで。
もちろん、本命の朝倉攻めの前に後ろを片付けておきたいという軍事的な理由も大きい。
長引いている問題をかたづけて前へ進むのだ。
というわけで中伊勢を落とした。
すると今度は南伊勢と敵対した。
次から次へとどうなってるんだまったく。
とはいっても、もともと南伊勢は中伊勢と対立していたのだ。
そして時間の都合もあり、中伊勢は降伏させた。つまり味方にしたのだ。
となると南伊勢との対立も引き継ぐことは必然だった。
そしてこの南伊勢が強かった。
実はこの南伊勢の勢力は、室町幕府の時代の前からの対立を未だに引きずっている勢力で、つまり現幕府の潜在的な敵である。
この際だからぼくの勢力地にも、そして京にも比較的近いこの勢力をまるっと片づけて後顧の憂いを断ってしまうべきだと考えていたのだ。
だが、どうにも押し込み切れない。
籠城した相手がものすごくしぶとかったのだ。
このままでは朝倉攻めとその準備に支障が出てしまう。そういうところまで追い込まれた。
攻めているはずのぼくらが逆に追い込まれてしまった。
結果、事ここに至って、やむを得ず、義昭さまの権威にすがるしかなくなったのだ。
義昭さまに和睦を命じていただいた。
和睦したいが面子上難しいという時、将軍から命令をもらうことでメンツを保つという手法は、いくつも前例があることなので問題はない。
いや、問題はないわけではないが、いま優先すべきは朝倉攻めなのである。
これで義昭さまに、こいつちょっと頼りないかも、と思われたかもしれない。次の本命でしっかり働いて、見直してもらわなければ。
そのためにも、後ろで暗躍されては困る。
なので和睦の条件に、ぼくの息子を養子にすることをねじ込んだ。
少し無理押しした部分はあったが、仕方がないのだ。
息子がすぐに実験を取れるとは思っていない。
しかし、内部にいることで動くようなら連絡するくらいはできるはず。
必要な備えということだ。
こうして伊勢攻めは満点とはいかなかったがひとまず片付いた。ということにしておこう。
次は朝倉である。
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