第7話 真・初めての上洛
上洛はおおむね成功した。
道中、六角は撃破した。
当主父子には逃げられてしまったが、拠点である城は奪取したし、抵抗力は大きく奪うことができたので対三好を優先してこれ置いておいた。
これがまた後々まで祟るのだが、この時にはその将来は見通せていなかった。見通せていたとしても、優先順位が変わっていたかというと難しいところだけれども。
そして三好も畿内から追い出した。
簡単に聞こえるかもしれないが、これには理由がある。
まず、三好が掲げる将軍が、ぼくらの上洛に前後して亡くなったのだ。
病だったらしい。
旗印を失った軍勢は脆いものだ。
さらに、三好も一枚岩ではなかった。
かつての将軍殺しをよく思っていない者もいたのだ。
それ以外にも理由はあるだろうが、大きくなった勢力には仲違いもあれば利害の不一致も生まれてくるもので。
義昭さま方が勢力の糾合に苦戦していたのと同じように、三好も内部はがたがただったらしい。
もともと彼らの本拠は畿内ではなく阿波だったこともあり、義昭さまがぼくらを率いて進軍すると降伏、撤退、逃走が相次ぎ、かくて三好、中でも将軍殺し一派は畿内から追い出すことに成功したのだった。
ややこしい言い方をしたのは、三好にも上洛に協力した者がいたからだ。彼らは今後も義昭さまに仕え、幕府を支えていくことになるだろう。
結果として、約一か月で上洛は完遂された。
三好の拠点だった場所を焼き、入洛の際は略奪を厳禁して義昭さまの面子が保たれるよう尽力した。
こうして無事上洛が成功し、義昭さまは征夷大将軍となることができた。
義昭さまは大喜びで、祝いの酒宴でぼくに、管領か副将軍になってくれと戯言をいうほどだった。
もちろん丁重にお断りした。
無礼講でも調子に乗ったらあとでひどい目にあうのだ。そうでなければどうなることか。
管領も副将軍も、ぼくがなるべき役職ではないのだ。
ぼくは幕府の下につくべき立場であり、幕府の中に入っていけば長らく仕えてきた幕臣の皆さんも気分が悪いだろう。
なにより、中央の政治はわからない。
偉くなれば摩訶不思議な慣習などに沿った行動が求められるだろう。
実は昔、そういう常識を知らず恥をかいたことがあった。
上総守と名乗ったことがあったのだ。
しかし上総守はぼくら臣下には与えられない役職だった。陛下のご一族にのみ任じられるものだったのだ。
その時のことを考えると、どこに触れてはならないものがあるかわからないお偉いさんの住まうべき場所に踏み込むべきではない。そう考えていた。
それでぼくが大失敗をしたらどうなるか。
例えば幕府の重職についたぼくがナメられてしまう。
それはつまり、幕府が、義昭さまが軽視されることにつながるのだ。
すると、幕府の安定は遠のいてしまうだろう。
だからぼくはあくまで幕府に仕えるものにとどまり、幕府の内部に入ることはすべきではないと考えていたのだ。
ただ、純粋に統治のための人員が足りないという問題があった。
将軍が殺された時点で幕府は崩壊してしまい、一部は敵味方に分かれていたし亡くなった者もいる。
その点については織田家が手を貸す形となった。あくまで幕臣ではなく、織田家としてである。
実務に専念することで幕府に奉仕できればそれでいい。
これにて天下布武は達成されたのだ。そう思っていた。
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