第7話 美容室は30回ローン払いで。
翌日。
部活を終えたぼくらは、いつものようにくだらない会話をしながら、地元西桜が丘の駅まで帰ってきました。
スーパーマーケット・コープに入り、アイス片手にベンチに座り込みます。
「ボコルフ~ボッコルフ~
なんか、ロシア人の傭兵みたいでかっこええなあ~」
顔面にワックスを塗りたくられて、ボコルフというあだ名をつけられたぼくですが、それには満足していました。
ミジンコ並みの単細胞と言われるゆえんです。
しかし、とある問題に気付きます。
かっこよくなるために買ったワックスですが、たった1日で全て使ってしまったのです。
ぼくはボブときゃぷてんに相談しました。
「朝にワックスつけて、かっこええ状態で学校行きたいのに、昨日みたいに夕方つけたってしゃあないやん?」
「そやな。だから朝は、ボコルフが1人でつけるしかない」
「けど、俺さ。ひとりでつけられへんねん」
「子供か?」
「子供や。まだ高校生、15歳やからな」
ここできゃぷてんが妙案を出しました。
「わかった!
毎朝、美容室に行って、ワックスをそこで髪の毛セットしてから学校行く。
これどう?」
「ええやん!かっちょええ髪型を毎日維持できやん!」
何も考えずに小躍りするぼくに、ボブがつっこみを入れます。
「あほか!学校始まる前に開いてる美容室なんてねーやろ」
「わかった。じゃあ美容室の開店を待つわ。
ほんで散髪してから学校へ行く。髪の毛がカッコいい状態にするためや、遅刻は致し方ない」
「と、とっしー…」「お前ってやつは…」
ボブときゃぷてんは顔を合わせています。
「お前らは、俺に構わず朝からしっかり学校いけよ!散髪で遅刻なんて、俺だけで十分や!」
「かっこええ台詞なんやけど、なんかださいなあ...」
「けどお前、知ってるんか?
遅刻が3回重なれば、欠席1や?」
「知ってるよ…けど、是非に及ばず…」
そのとき、ボブは核心的な一手を放ってきました。
「けど、毎日美容室行く金あるん?」
「よくぞ聞いてくれました。だから俺は工夫する!
一回3000円の美容室を30回払いに分けてもらう。
一回100円で30日。毎朝、ちょっとずつ切ってもらって、ワックスをつけてもらう」
「なるほどな、とっしー。お前は、発想が天才やな!」
きゃぷてんは、笑いをこらえながらそう言います。
「やろ?
今日は右サイドの前髪切ってください。明日は中央の前髪を切ってください。
明後日は襟足...あ、やっぱ襟足は残しといてください」
「そういや、日本のセンターバック、トゥーリオやな!」
2009年当時、日本サッカーのセンターバックは田中マルクス闘莉王でした。
オウンゴウルしたり、コートジボワールの英雄ドログバを骨折させたり...
今振り返れば、くだらない会話でしたが、その頃のぼくらにとってはかけがえのない青春でした。
「ちょ、そろそろ帰るわ。もう門限の7時や」
「いや、まあ待てよ。もうちょっと話そうぜ」
「せやな」
「ちょ、そろそろ帰るわ、もう門限すぎてる」
「いや、まあ待てよ。もうちょっと話そうぜ」
「さすがに、もう8時半や…」
そういって、ベンチから立ち上がったぼくの袖を、二人は掴みます。
「まあ、まあ…」
ボブときゃぷてんの引き留めを受け続けた結果、あっというまに時間は過ぎ、時刻は夜9時を指していました。
*
「家に帰りたいんやぁー!もう9時や!門限7時なんやあ」
月明りふんわり落ちてくる夜は、門限のことばっかり~。
二人の静止を振り切って、帰路につこうとしたものの歩道橋の上で捕まってしまったぼくは、その場に倒れこみました。
「お前ら、何時やと思ってるねん!?9時やぞ!?」
中学生時代は優等生だったぼくは、門限を破ったことがありませんでした。
そんなぼくに、ボブは強く言い放ちます。
「とっしー。お前な?高校デビューを目指して髪型もかっこよくしたやつが、門限7時でやっていけんか?
彼女ができたときも門限7時とか言うんか??」
「いや、けど、門限は7時なんやあ」力なく答えるぼく。
きゃぷてんもボブに続いてぼくを諭します・
「もう高校生やねんから親に反抗していけよ。
ガリガリくんを買って持ち帰って、おかんから60円もらう。門限7時を厳守する。そんな高校生でええんか!?」
うぐぐぐう。
そのとき、ぼくの中で何かがうごめきました。
♪行儀よ~く真面目なんてできやしなか~た~♪
そう、卒業です。
そして高らかに叫びます。
「門限7時は早すぎるのだ。もっと遊ぼうぞ!!」
その言葉を聞いたボブは、不敵な笑みを浮かべました。
「よし、じゃあ今から`バグり島`に行くか」
「バ、バグり島?」ぼくは聞き返します。
おかしい、ここは神戸市北区の田舎町。内陸に島なんてありません。
「バグり島はバグり島や。ええ場所やぞ~あそこは」きゃぷてんもニヤリと笑います。
「わ、わかった」
そしてぼくは、彼らに連れられて、「バグり島」なる場所に向かいました。
そこは一体どんな場所なのか?
期待と不安に胸躍らせ、歩みを進めます。
俺たちバグジー親衛隊 喜多ばぐじ ⇒ 逆境を笑いに変える道楽家 @kitabagugi777
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