第5話 散髪は公園で~夕暮れのジョキジョキ~

思い立ったら行動に移る。


それがぼくらの良いところです。


素直にベンチに座ったぼく。ハサミを構えるボブ。それを見守るきゃぷてん。


三人の高校生は、公園で散髪を始めます。


ジョキジョキジョキ...


夕暮れの公園に鳴り響くハサミの音。


もちろんボブは、散髪免許を持っていません、いわゆる無免許運転、もとい、無免許散髪。



無免許のボブをサポートするのは、同じく無免許のきゃぷてん。



「前髪が重いねん!もっとふわっとせえや!」


「わかった」


そんな二人の様子をみて、散髪される側のぼくは妙な安心感を覚えていました。


彼らは思ったより真剣です、真顔でぼくの髪を切っています。


「なあ、ボブ。頼むから角刈りはやめてくれ…」


「うるさいなあ。俺らを信じてたらええねん」


「ハサミを持てば人が変わる。これが生粋の職人って奴か」

ぼくはそう呟いて、目をつむって彼らに全てを任せることにしたのです。





ヒュゥー。


時折吹く風がぼくの髪を公園に撒き散らします。

無邪気に公園で遊ぶ小学生達は、ぼくらの姿に驚きを隠せません。


「ねえ。髪切ってるおにいちゃんがおるー!」


「君ら、どうしたん?」


「けど、どんどんかっこよくなってる!すっげえー!」


「ぼくも切ってよー」

純粋な心っていいですね。これが大人なら、不審者がいる、で終わりです。

しかし子供たちは公園での散髪に興味を抱いてくれるのです。


いつまでもそんな心を忘れたくないですね、はい。



「とっしー、俺に任せろ。俺がお前を、イケてるメンズの髪型にしてやる」

ボブはそう呟きながらハサミを操ります。


ぼくは、「かっちょええ髪型になるはずや、俺はお前を信じる」と、返答しました。


この場所は、ヘアサロン葉坂、ぼくの家の前の公園です。





20分後...


「とっしーできたぞ!アシュメの完成や!」


ボブの声と共に、きゃぷてんはカバンから鏡を取り出しました。


「なんでそんなん持ってるん?」


「公園で散髪するときに使うやろ?」


「お前らにとって、公園での散髪ってそんなにスタンダードなものなん?」


「ああ」


余談ですが、ぼくらの司令塔、きゃぷてんの愛犬の名前はゴルバチョフ書記官です。きっと、とても偉い犬なんでしょう。


鏡で髪形を確認すると、かっこよいアシュメヘアーになっていました。

しかし、襟足だけは妙にアンバランスに長く残っています。


ニワトリのような、アシュメヘアー。


「けっこうええやん、ありがと!」


「おう、じゃあ1000円な」


「え?金とるん!?」


「当たり前や、おれらもプロやからな。この世界なめんなよ!」


「お、おう。まあ切ってもらったし、かっこええしな」


ぼくはそう言って、ボブに1000円を渡しました。




家に帰ったぼくを見て、母は叫びました。


「あんた!髪型、なんかおかしい!散髪代の3000円を渡したのに、ほんまに散髪屋行ったの?」


勘付かれたのか、と焦ったぼくは、


「さ、散髪屋定休日やったから自分で切ったんや!」


と返答します。


すると、母は、「あんた凄いわね」と、真顔で感心するわけもなく、「正直に言いなさい!!」と問い詰められました。


この日は公園で散髪しましたが、約1年後、ぼくたちは高校の敷地内で散髪をするという暴挙にでました。


それが大きな事件を引き起こしますが、それはまた後日。

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