第5話 散髪は公園で~夕暮れのジョキジョキ~
思い立ったら行動に移る。
それがぼくらの良いところです。
素直にベンチに座ったぼく。ハサミを構えるボブ。それを見守るきゃぷてん。
三人の高校生は、公園で散髪を始めます。
ジョキジョキジョキ...
夕暮れの公園に鳴り響くハサミの音。
もちろんボブは、散髪免許を持っていません、いわゆる無免許運転、もとい、無免許散髪。
無免許のボブをサポートするのは、同じく無免許のきゃぷてん。
「前髪が重いねん!もっとふわっとせえや!」
「わかった」
そんな二人の様子をみて、散髪される側のぼくは妙な安心感を覚えていました。
彼らは思ったより真剣です、真顔でぼくの髪を切っています。
「なあ、ボブ。頼むから角刈りはやめてくれ…」
「うるさいなあ。俺らを信じてたらええねん」
「ハサミを持てば人が変わる。これが生粋の職人って奴か」
ぼくはそう呟いて、目をつむって彼らに全てを任せることにしたのです。
*
ヒュゥー。
時折吹く風がぼくの髪を公園に撒き散らします。
無邪気に公園で遊ぶ小学生達は、ぼくらの姿に驚きを隠せません。
「ねえ。髪切ってるおにいちゃんがおるー!」
「君ら、どうしたん?」
「けど、どんどんかっこよくなってる!すっげえー!」
「ぼくも切ってよー」
純粋な心っていいですね。これが大人なら、不審者がいる、で終わりです。
しかし子供たちは公園での散髪に興味を抱いてくれるのです。
いつまでもそんな心を忘れたくないですね、はい。
「とっしー、俺に任せろ。俺がお前を、イケてるメンズの髪型にしてやる」
ボブはそう呟きながらハサミを操ります。
ぼくは、「かっちょええ髪型になるはずや、俺はお前を信じる」と、返答しました。
この場所は、ヘアサロン葉坂、ぼくの家の前の公園です。
*
20分後...
「とっしーできたぞ!アシュメの完成や!」
ボブの声と共に、きゃぷてんはカバンから鏡を取り出しました。
「なんでそんなん持ってるん?」
「公園で散髪するときに使うやろ?」
「お前らにとって、公園での散髪ってそんなにスタンダードなものなん?」
「ああ」
余談ですが、ぼくらの司令塔、きゃぷてんの愛犬の名前はゴルバチョフ書記官です。きっと、とても偉い犬なんでしょう。
鏡で髪形を確認すると、かっこよいアシュメヘアーになっていました。
しかし、襟足だけは妙にアンバランスに長く残っています。
ニワトリのような、アシュメヘアー。
「けっこうええやん、ありがと!」
「おう、じゃあ1000円な」
「え?金とるん!?」
「当たり前や、おれらもプロやからな。この世界なめんなよ!」
「お、おう。まあ切ってもらったし、かっこええしな」
ぼくはそう言って、ボブに1000円を渡しました。
*
家に帰ったぼくを見て、母は叫びました。
「あんた!髪型、なんかおかしい!散髪代の3000円を渡したのに、ほんまに散髪屋行ったの?」
勘付かれたのか、と焦ったぼくは、
「さ、散髪屋定休日やったから自分で切ったんや!」
と返答します。
すると、母は、「あんた凄いわね」と、真顔で感心するわけもなく、「正直に言いなさい!!」と問い詰められました。
この日は公園で散髪しましたが、約1年後、ぼくたちは高校の敷地内で散髪をするという暴挙にでました。
それが大きな事件を引き起こしますが、それはまた後日。
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