第4話 街角調査隊~角刈りorボウズ~
高校デビューを決意したぼくは、まず髪型をかっこよくすることにしました。
そこでボブときゃぷてんが考案した作戦は、
道行く人に、「似合う髪型」を聞いてみよう!
疑いながらもそれを実践し、結果を2人に報告します。
「おい!インタビュー終わったぞ!
角刈り3人、坊主が2人や!おすすめの髪型ださすぎるやろ!」
ボブは笑みを浮かべます。
「よし、多数決の結果、角刈りで決定や!」
きゃぷてんは首を傾げながら、「坊主も捨てがたいけどなあ」と口をすぼめていました。
「いや、やめようぜ!角刈りはカッコ悪いって…」
この結果に満足できないぼくは、彼らに反論しますが、それは聞き入れられることがありません。
「町の人々が言うんやから間違いない。とっしーは角刈りで高校デビューをかざればモテる!」
「ちょっと待っとけよ!母数を増やせば、結果が変わる!」
ぼくはそう言って、再び調査に赴きました。
しかしただ、調査するだけでは先ほどの二の舞です。
「角刈りとボウズ」が投票されるのを黙ってみるばかり。
ですので今回はターゲットを変更しました。
若いお姉さんや女子高生に対象を絞ったのです。
高齢者比率の高いこの町で、じじさん、ばばさんたちから、若い女子をみつけるのは至難のわざでしたが、ここは諦めるわけにはいきません。
このインタビューに、自分の髪型がかかっているのです。
そのとき、視線の先に、目の前を若い女の子が目に入りました。
体から歴戦のナンパ師のような雰囲気を漂わせて、そろりそろりと近づきました。
「さーせん、さーせん!ぼくの髪型、どんなんがええっすかね?」
「え?ど、どうでもいいです」
お姉さんの反応は冷たいものでした。
ナンパ師っぽいと思ったら、髪型を聞かれた、なにこの人、怖い。
そんな感情が、表情筋から滲み出ていました。
しかし、多少のドン引きでへこたれるぼくではありません。
「カッコいい髪型になる」という目標に向けて挑み続けます。
普通の人なら、ジュノンボーイなどの雑誌をみて、かっこいい人を真似します。
しかしそれをせず、`人に聞いてみる`という方法にこだわるのです。
そのとき、学校帰りの女子高生3人組が、そばを通りました。
ぼくは、女子高生が松潤を見つけたとき、よりも猛ダッシュで近づきます。
「さーせん!ぼく、今から公園で散髪するんスけど、どんな髪型にしますか!?」
この頃になると、質問内容が意味不明になってきていました。
3人の女子高生は新種のウイルスを発見したかのような眼でぼくを一瞥します。
そして、何も言わず、早歩きで逃げていきました。
後方ではボブときゃぷてんが、途方にくれるぼくをみて笑っています。
「若い女性は、質問に答えてくれない…」
そう思ったぼくは、安寧の地に戻ることにしました。
そう、必ず回答してくれる主婦への質問。
「さーせん!ぼくが散髪するとしたら、髪型はどんなんがええっすかね?」
主婦は驚くわけでもなく、ぼくの顔を凝視します。
「あんた、素朴な顔やからねー。角刈りなんてどう?」
主婦は安定して答えてくれます。そして、たいてい角刈りを勧めてくれます。
もう2人に質問したものの、やっぱり角刈りでした。
*
これはヤバイ、そう思ったぼくは、ボブときゃぷてんにこう告げました。
「さっきのおばちゃんな。君は、アシュメが似合うって、言うてたわ。アシュメスタイルに散髪してくれ!」
「嘘ついてごまかそうとするなよ」
しかしきゃぷてんはぼくの嘘を見抜きます。
「ぐぐぐ…」
「どうせ角刈りやろ?」
「か、か、角刈り、や…」
「角刈りに決定でーす!」
「いやぁーや!角刈りはいやーや!!」
渾身のホラを見破られ、調査は終了しました。
*
今回わかったことは、おばちゃんは三度の飯より角刈りが好き、若い女子は不審者に敏感ですぐ逃げる、ということです。
テストにも出ない、人生に無益な情報ですが、何事も無駄なことはないのです。
「とりあえず、ヘアサロン葉坂にいこう。」
ボブの一言を受けて、ぼくらは、ヘアーサロン葉坂に移動しました。
彼がヘアサロンと呼ぶその場所は、ぼくの家の前の公園でした。
「ここのどこがヘアサロンやねん!?俺の家の前の公園やん!」
「まあ、慌てるな」
ボブはそう言うと、カバンから散髪用ハサミを取り出しました。
「お前、なんで持っているねん?」
「こういうときに備えてな」
「どういうときやねん」
「友達の髪を公園で切るときや」
「そんなときあるはず…
あ、今や!」
ボブときゃぷてんの頬が、かすかに緩みました。
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