第3話 エッセイ・待っとく
公園で散髪というぶっとんだ行動をする僕たちも、普段はフツーの高校生です。
学校では、それはとても真面目に授業を受けています。
ある日、数学の授業で起こった体験をボブは語り始めました...
数学の橋田先生の授業受けててさ。俺は言われたんや
「ここ解いて?」
俺は自信持って答えたよ。
「ルート1です」
先生はキレ気味で言うんや。
「違う」
違うと言われても、どう計算してもルート1や。俺はまた答えるよ。
「ルート1です」
「違う。じゃあ待っとく」
待っとかれるからな?
これがこの先生の恐ろしいところや...
「待っとくってなんやねん!」
「先生としては教えるべきやろっ」
へらへら笑いながら突っ込む僕らに、ボブは神妙な面持ちで話します。
「いや、お前ら。待っとかれる緊張感しってるか?授業を止めて、みんなが俺の解答をまってるねん。
そんときって、クラス全員が真顔やからな。授業の空気がとまり、時計の針は進む。
そして、全員が俺の解答を待つ。あーこわ!思い出しただけで震えるわ」
…西野カナ?
「そんとき橋田先生ってどんな顔してるん?はよ答えろやみたいな感じ?」
「ちゃうよ、あの先生。俺にドヤ顔してくるんや。何が嬉しいんだか...」
「俺もその体験あるやで」
隣から、きゃぷてんが話に割り込んできました。
彼のパターンはこうです。
「ここ解いて?」
「わかりません」
「じゃあ待っとく」
しんぷるっっっ!
「いや!待っとくってなんやねん!!!待たんでええから教えるか、次のやつに聞けよ!」
全員が声を揃えました。
「で、そんときの橋田先生の顔は?」
「ドヤ顔」
僕らは素朴な疑問を尋ねます。
「てかさ、お前らって待っとかれたときどうするん?」
「どうもできんよ。考えたってわからんからな。だから、考えるふりをするねん」
「いや、それ考えるフリしてるってことは考えてないんやろ?
考えてないねんからできんままやん?」
「そうや、この待っとかれる状態からの回避方法は一つだけしかない」
「回避方法ってなんや?先生の根負けか?」
「ちゃうよ。あの先生5分でも10分でも待ち続けるからな」
「じゃあ、どうやって回避すんねん?」
「周りの誰かがそっーっと教えてくれるのを`待つ`」
「お前も待つんかよ!」
「先生も待つ。俺も待つ。クラスのみんなも待つ。全員が待つ状況が生み出されるんや。
俺のときは前の'安宅っち'が後ろ向いて「いち」と教えてくれたから助かった」
「安宅っちってあの、右足小指をタンスにぶつけて小指骨折したレジェンドか?」
「そうや。あのときは安宅っちのぼーっとした顔が女神に見えたわ。あれは惚れる」ホモかよ。
橋田先生のおかしさに疑問が晴れない僕らの議論は、ヒートアップしていきます。
「'まだ解けてません'→ '待っとく' これはわかるねん。
けどさ
'わかりません'
→
'待っとく'
これはほんまに怖い!」
「てか、あの先生いつからあんな教え方になったんやろな」
「ほっかほっかの先生なりたての時代から'待つスタイル'とは考えづらい」
「あれは性格やろ。子供の頃から待つのが好きやったんや」
「あー、たまにおるな!待つの好きなやつ!」
その時、ふっと背後から気配を感じました。
背中がこわばるというのさこういうことでしょう。
話題の当人、橋田先生が僕らを見下ろすように、腕を組んで立っています。
僕らは身の危険を感じましたが、誰も足が動きません。
僕に至っては産まれたての子鹿のように足をプルプルさせています。
「どうした?何の話をしてる?」
「いやあ、なんでもありませんよ」
当の本人を小バカにして盛り上がっていたとは、口が'もげても'言えません。
「言ってみろよ。気になるじゃないか」
「だからなんでもないですって」
「そうか。じゃあ待っとく」
僕らは真顔。橋田先生はドヤ顔。みんな仲良く揃って廊下で立ち尽くしました。
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