7 魔宮食堂

午前の仕事が終わり、昼休みになった。

今日はさっき仕事の合間に約束して、ブローディアとデアナと共に魔宮食堂に行くことになっている。

(もうちょっといいレストランとか行ってもよかったと思うけどな)

魔宮食堂にしようと言ったのはブローディアだ。


「ゼジュービー!」


肩までの明るい水色の髪を揺らして、デアナが走ってきた。


「おう」


デアナは、そこにブローディアがいなさそうなことを悟るとがっかりした表情になった。


「ブローディアたん、まだなの?」

「そうっぽいね」

「迷ってるんじゃないの?」

「そうかもね」

「私探してきてもいい?」


目を輝かせてデアナがゼジュービに尋ねる。


「…」


(どこ行ったかわかんなくなったら面倒くさいよな)


「遅れて申し訳ございません」


そんな声が聞こえてはっと振り向くと、上品な微笑みを湛えてブローディアが立っていた。


「あなたがブローディアたん?!」


デアナが驚いたような声を上げる。


「ええ。ということはあなたはデアナ様ですね、はじめまして」


ブローディアは完璧なスマイルを崩さず、軽く会釈する。


「うわー。お洒落だし超キレーじゃん」


デアナは感嘆のため息をつく。

ゼジュービはブローディアの方を見てみた。

確かに美人だ。

胸まで伸ばしたふわふわの淡い色の髪は横で一筋だけ結っており、残りはおろしている。

毛先へいくにつれてクリーム色を帯びてグラデーションになっているのが神秘的だ。

桜桃のようにぷっくりとした桜色の唇にラインの綺麗な鼻筋、それに何より、ぱっちりとした深い青色の瞳。

朱色と白で彩られた衣装は真っ白な肌によく映え、ブローディアを引き立てている。

いわゆる「キレイ系」だ。


「ありがとうございます」


ブローディアは恥ずかしそうに俯いた。


「デアナ様も素敵ですよ」


デアナはというと、肩で切りそろえたまっすぐな薄い水色の髪には水に濡れたようなツヤがあり、触ってみるとさらさらと指の隙間からこぼれおちる。

デジュービより10センチほど低い背丈は小ぢんまりしていて、小動物を思わせる。

小ぶりな鼻や唇に、これまたぱっちりとしたアーモンド形の若竹色の瞳。

綺麗な空色の、丈が短く裾にレースのついたワンピースには小さな鈴がついていて、風が吹くたびにチリンと軽やかな音を立てている。

重ね着している薄いTシャツは雲の色のような白だ。

髪に止めている濃い青紫のピンもよく似合っている。


「わ、私は別に…。それより、様付けしなくていいよ、別に」


デアナはくるりと反対側を向くと、食堂へと歩き出した。


「ブローディアは、魔宮食堂来たことあるの?」


昨日とか一昨日とかの昼食に利用したことがあるかも、と思い、聞いてみた。


「いえ、初めてなんです」

「ええっ初めてなの?じゃあおすすめのメニューとか教えてあげるね!」


前を歩いていたデアナが間髪入れずに言う。


「ふふっありがとうございます」


食堂についた。

魔界には似合わなさそうな真っ白な建物には、まるでおとぎ話に出てくる家のように可愛らしい赤い屋根がついている。

とはいえ中に入ると割と広く、混雑するお昼時でも大抵空席を見つけられる。

スライド式の木の扉を開けると、案外客は少なかった。

(ちょっと早めだからか)


「ブローディアたん何食べる?おすすめ教えてあげるね!」

「ありがとうございます」

「私ちょっと先買ってくるね」


何やら楽しそうに会話している二人を置いて、ゼジュービは麺類の売り場のほうへと近づいた。


「おぅ、ゼジュービ。今日は一人かい?」


食堂でよく話す、調理人のおばさんがタオルで手をふきながら尋ねてきた。


「いいや、デアナと新入り連れてきたよ」

「新入りか!どこにいるんだい?」

「ほら、あそこ。定食売り場のあたりで談笑してる」


すっと二人を指さす。


「あらあらあらあら。べっぴんさんだね~」

「相部屋なんです」

「そうなのか…ん?あの子ってもしかして…」


(気づいたか)


「そのもしかしてだよ」

「うわすごいな、この食堂も『神帝候補第一位御用達の店』って宣伝できるな!」


(そっちかい)


「とりあえず、雨内うない頼むね」

「はいはい、じゃあまたおまけにサラダ大盛にしとくね」

「ありがとう」


竹でできた、数字の書かれた札を受け取ると窓際のテーブルを取り、座る。

(今のうちに惠南買っとくか)

ジャケットをテーブルに置いて、惠南を買いに食堂のはしのほうにある果物売り場に行くことにした。


「惠南を3個くらいください」

「はい、惠南3個ね、12魔円だよ」


果物売り場で退屈そうに座っていたおじさんは、コウモリのイラストが描かれた札一枚とコイン2枚を受け取ると、惠南を3つ、紺色の布の袋に入れて渡してくれた。


「ありがとう」


ブローディアが惠南にハマった以上、当分この売り場にはお世話になりそうだなと苦笑して、席へと戻る。

ブローディアとデアナは既に竹の札を片手に、料理とゼジュービを席で待っていた。

(なんかさっきから変な視線を感じるのだが気のせいだろうか)

ぐるりと周りを見回してみたが怪しい影はない。

(気のせいか)


「注文番号1番さーん、雨内できましたよー」


どうやら注文した料理ができたようだ。

ゼジュービは足早に料理の渡し口へと向かった。

その後ろからは、小さな影がゼジュービを見ていた。

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