4 天璃の過去

今回はいつもより短いです、ごめんなさい。

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「あいつはまだ昨日来たばかりなんだ」


ウルダーシュはそう言うと続けた。


「多分堕ちてきたんだろう、翡翠館の近くに居たらしい」


ゼジュービははっとしたように武闘魔王を見る。


「翡翠館といえば…あの、岩だらけのところ?」

「そうだ、あそこだ。あそこの同じところにになぜかちょうど地上で死んだ死者の魂があった。確か名前は…ごめんそれ言っちゃダメなことだった。で、その魂は一週間前くらいに来て翡翠館の近くにいたんだが、近くに住んでいたロワイアさんとかいう人が魂を拾って寝泊まりさせてやってたらしい。その間に魔界のシステムとかいろいろ教えてやってたそうだ」

「その魂と天璃にどんな関係が?」


そう聞くとゼジュービは机の上のフルーツを一つ手に取った。

ピンク色に黄緑色の斑点の入ったファンシーな色合いの皮が、光を反射してつやつやと光る。皮付きのまま一口かじると、みずみずしい香りとほんのりとした甘みが口の中で広がる果汁とともにプチプチはじけては消えていく。


「どんな関係、か。じゃあ、天璃の話に戻る。天璃が堕ちてきたときその魂がちょうどそこにいたから、魂がここ魔宮に天璃を連れてきた。魔帝が一応神帝の方に連絡とって確かめたらしいが、マジであの神帝候補第一位だった天璃だそうだ。確か今は…下級魔のモスカに仕えてるとか言ったような」

「でもなんで堕ちてきたんですか?神帝候補第一位というすごい地位を持っているはずなのに」


ゼジュービは食べかけのフルーツを一旦口から離して言う。


「なんか神帝候補の地位を降りて天使になってたらしい」


(天使?神帝候補第一位からそんな下っ端に?)


「どうして?」

「知らん」


武闘魔王はため息をつく。


「知りたかったら本人に聞きなさい」

「…」


ゼジュービはまたフルーツを手に取りかじり始めた。


「聞きたいことはそれだけだな?」

「あの、どうして堕ちてきたんですか?」


一番知りたかった疑問だった。

すると武闘魔王はゆっくりと目を伏せながら言う。


「それは言えない。ただ重い罪をしでかしたことは事実だ」

「…わかりました、では失礼します」


なんだか諦めきれないようなもやもやした気持ちのまま、半分ほどに減ったフルーツを片手に武闘魔王の間を出て時計を見ると、7時を過ぎている。

(もう仕事終わったか、ウルダーシュ様にあとでお礼言っとかないと)

静かな廊下に木靴で床を踏む音と高級フルーツをかじる音だけが響き渡る。

(地上か。きっと麗も地上にいるのだろうな)

そう思うと少し地上行きが楽しみになってきた。

自室の前に来た。

にこにこしながら、木のネームプレートをゆらして自室のドアを押す。

ウィンドウチャイムのキラキラとした音とともに曇りガラスの向こうが見えた、その瞬間だった。


「あら、こんにちは。今日から相室の-」

「ええええっ?!」


目の前にあったのは、天璃の顔だった。

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