3 読子の過去と魔王の願い

「では始める。そこの君からだ、名前は」


ゼジュービは栗色の髪の少年に呼び掛けた。


「ネイハ…で…す」


念のため嘘をついていないか確認しようとゼジュービはネイハと名乗った少年の額に目を合わせ呪文を唱える。瞳からふわりと深紅の光が漏れる。

嘘をついていないか確認できると、ゼジュービはファイルをペラペラとめくり「ネイハ」の名前を探した。

(これか)

ゼジュービは「寧羽」を見つけると隣に星形のハンコを押した。


「君は四人家族に生まれすくすく育ったが先月病気になり今日亡くなったことで間違いないな?」

「はい」

「えーと、じゃあ、」


ゼジュービは手元のファイルに目を落とす。


「君はかなり将来を期待されている。だからまぁ…もう一度地上に戻ってやり直しということで決定」

「はい」


寧波は小さく返事した。

その声と同時に隣にいた地上に魂を送る役の中級魔が寧羽の足元に円を描く。

たちまち円は黄緑色に輝きだし、寧羽を包み込む。

(あーもう仕事とかどうでもいいから早く天璃がホントに魔界にいるのか確かめに行きたい…)

早く会いたいあまりにいろいろと質問をはしょって次々に魂どもを裁いていく。

廊下にクリーム色のふわふわした髪の女性が見えないか常にチェックしながらだ。

(ん?ちょっと待てよ、会いに行くとしても天璃がどこ所属で働いてるかとか全然知らないから無理じゃん!)

どうやって情報をつかもうかとあわあわしていると、裁きの間にウルダーシュが何やら急いだ様子でやってきた。


「ゼジュービ、武闘魔王様がお呼びだ」

「んー、まぁすぐ行きます」

「あぁ、武闘魔王の間だ。すぐ行ってこい、俺がその間やっとく」


(なんかやらかしたか?)

ゼジュービは速足で武闘魔王の間にむかった。魔王に呼び出されるのは初めてではないがそんなことは2年ぶりだ。

ちなみに魔王は5人いてそれぞれ「武闘魔王」「智賢魔王」「能術魔王」「守護魔王」「界治魔王」と名付けられている。


「失礼します」


おそるおそる武闘魔王の間に入ると、武闘魔王と武闘魔王候補と武闘魔王の妹が並んで座っている。

(うわやっば)

いつ見ても全員揃うと恐ろしい風景である。


「おう、君はゼジュービ・ヘルデーモンということで間違いないね?」


なんとなく雰囲気がウルダーシュに似た武闘魔王が機嫌の良さそうな声でゼジュービに話しかける。


「はい」

「新しい彩波の件についてだが」


(あーもうなんなんだよ彩波、彩波と)


「麗はパスコン、という機械を使うらしい」

「パソコンのことですか?」


地上には数はまだ少ないが、突起を押すだけでいろいろな作業ができるという道具が使われていることは、ゼジュービも聞いたことがあった。


「あぁ、それだそれだ。で、それを魔界にも取り入れたいと思う」

「はい、パソコンで打ってプリンターという機械で印刷すれば現在の魔界のようにスタンプだけで印刷するよりぐんと効率よくなりますね」


武闘魔王はゼジュービの目を見つめた。


「確かにパサコン?とやらを取り入れればもっともっと作業がしやすくなるともワシは考えておるが、まだあの道具が世の中に少ない中あの彩波はあの道具を使っているわけだから、なんであんなに力が強いのかっていうところの手掛かりにもなりそうだとも思っている。それに『いんたーねっこ』とかいうものを繋いだら麗が今どこにいるか、とかわかるらしいし情報の管理がしやすい」


(GPS機能か)


「しかし今はちょっとワシも問題が多い。地上との関係も今は少し悪くなっている。だから魔王会議で、ゼジュービ、中級魔の中でも一番有能な君を二週間後くらいに地上に派遣して、パシコンを魔界まで持って帰るという任務を与えることに決まった」

「…武闘魔王様、任務についてはわかりましたが『』です、『』」

「あぁ、パソコンだ」

「で、それにしてもどうして上級魔じゃなく中級魔である私に?」

「…すまん、さっきの『中級魔の中でも一番有能な君を』は嘘だ。君がもともと「読子よみこ」だったからだ」


(やっぱりな)


「私はその座を降りた身です」

「でもまだ『読む』力は残っているのではないのか」


(しぶといな)


「過去のことはなるべく忘れたいので。とにかく任務のことは了解しました」


そう言ってそそくさと間をでようとする。


「ちょっと待て」

「なんですか?」

「…天璃を見たか」


デジュービははっとする。


「はい見ました、見ましたよ!掲示板を見てました。天璃は本当に魔界にいるのですか?どうして?神帝候補第一位なのに?どこで働いてるんですか?」

「まぁそう質問攻めにしないで、話していいことは一から話すから」


そう言うと武闘魔王はゆっくりと口を開き語り始めた。

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