2 彩波と色彩
集会室に入ると上級魔のアルトがどっかり座って待っている。
いつもの穏やかな空気とは違う張り詰めた固い空気にデジュービは動揺した。
「ゼジュービ・ヘルデーモンとデアナ・ラスタオで最後だな」
「はい」
(フルネームで呼ばれたのは何年ぶりだ)
なんとなくむず痒いような気持ちを無表情に隠してゼジュービは返事をした。
「それでは全員揃ったようなので話をさせてもらう」
全員がぴしっと背筋を伸ばしアルトに目線を合わせる。
「今から話すのは新たに発見された彩波についてだ」
そのセリフとともに集会室内の魔界人たちがアルトに不安気な目線を送る。
「今回発見された彩波は通常発見される彩波と違ってとても強い神の力が感じられた。危険度はZとなっている」
[危険度はZ]そう聞いただけで大半が恐怖におののき目を見開く。
「それでは今からその彩波の特徴を教えるからしっかり聞くように」
皆一斉に身を乗り出しペンとメモ帳を出す。
一方デジュービは彩波の特徴なんてどうでもよく感じられてふいっと窓の外に目をやった。
(魔界も変わったもんだな)
窓の外では堕天使やら悪魔やらの下っ端が掲示板をのぞき込んでいる。多分彩波についてのことが書いてあるのだろう。
(ん?あれはもしかして)
翼を隠している堕天使の中には神帝候補第一位だったはずの天界人がいた。確か名前を…
(なんで魔界にいるのだ?天璃が天界から追放されたなんて聞いたこともない)
「…というわけで、彩波には十分気を付けるように」
窓に気を取られているうちに話は終わってしまったようだ。
「ゼジュービ、危険度 Zの彩波ってヤバいよね!初めて聞いたよそんなの」
デアナが目をウルウルさせてゼジュービに話しかけた。
「ん?あー、うん」
「ちょっと聞いてる?」
「聞いてるよー」
「もしかしてアルト様のお話もぼーっとしてて聞いてなかったとかないよね?」
「彩波とか別にどうでもいいじゃん…」
お節介なー、とデアナを小突く。
「もー。どうでもよくないわよ、仕方ないから私のメモ見せてあげますー」
「はいはい、ありがと」
薄紫色の革表紙のメモには、丸っこい小さな文字で何やら書き込まれていた。
[ 彩波:麗
・髪色は銀色っぽい白
・目は菫色と赤色のオッドアイ
・肌は真っ白
・見た目は5歳くらい ]
(髪も肌も白っぽくて目は菫と赤だって?ってことは)
「いいよねー。私もこんな容姿になりたいよー」
デアナはまっすぐな水色の髪を撫でる。
「デアナ、申し訳ないけどちょっと今から会いたい奴がいるからまた後で」
「え?もう昼休み終わっちゃったよ」
(あぁ、そうだったか…。今にでもあの天璃らしき堕天使に会いたかったのに…)
仕方なく仕事場である裁きの間へと歩く。
深い紫のごつい扉を開けて中に入ると、そこには人型をした魂が整列して待っていた。
「あれ?俺らって閻魔大王に裁かれるんじゃないの?あのきれーなお姉さんに裁かれるの?」
そのうちの一人の黄色い髪の少年(の魂)が、こそこそと隣にいる少年(の魂)に話しかける。
「うん、死んだら閻魔大王に裁かれるってよく言うもんね」
話しかけられた栗色の髪の少年は答えた。
「でもなんかあの人もまた違う風に怖くない?『女王!』って感じで」
「まぁ閻魔大王に裁かれるよりあのお姉さんに裁かれるほうが絶対良いよな、あの人もマジで雰囲気怖いけど」
黄色い髪の少年は自分で満足したように首を振り前を向く。
(あー、またこれか。全く地上のやつらは…)
死んだ魂を裁くのは、「無口で不愛想で冷淡な口調の女魔」であるゼジュービだが、一度死んだが地上に戻った者のせいで、いつしか死んだ魂を裁くのは「炎をまとう冷たくて怖い大きな鬼魔」と肥大した噂が地上には生まれたらしい。
確かに切れ長の目や一筋赤髪の混じった長い黒髪、すらりと高身長な容姿は「かっこいい」と言われることもあるが「第一印象は『押しつぶされそう』だったよ」と言われることもある。
ゼジュービの中ではちょっとしたコンプレックスになっているし毎回毎回仕事のたびに怖い怖い言われるのはうんざりだ。
すぅっと深呼吸してそんな雑念を振り払い、さっそく仕事に差し掛かることにした。
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