第19話 オカヤマ ペディヴィエールの、提案
「簡単だよ。ユーサー様は剣ひとつでこの国を興された。なれば建国時代を共に生きた議員たちに、その当時の姿を思い起こさせればいい。アーサー王子は紛れもなくユーサー様の子であり、その天賦の才を受け継ぐ、王たる者に相応しい才覚を持つ者である――と」
俺たちの元へと歩みを進めて現れたのは、一人の少女と、少女に突き従う数人の女騎士だ。
「つまり王子は名のある騎士と戦って、それを打ち負かし、武勲を立てればいいのさ」
舌足らず気味の声でふてぶてしく言い放つ少女は――とてもかわいらしい女の子だった。
マーリンと近い外観から察するに、彼女の年は十四ほど。桃色のツインテールに、自信深い外上がりの容貌。細い体をオカヤマの上級騎士のみがまとうことを許された白銀の鎧で包み込み、しかしそれにも負けない、数多の戦場を渡り歩いた者が持つ貫禄を漂わせている。
――知らない顔だ。ユーサーに紹介された人物の中に、彼女は含まれていなかった。議員たちの護衛か、はたまた王城を守る近衛兵か何かなのだろうか? 暢気な顔で少女の姿を見つめていた俺とは対照的に、ユーサーは緊張に顔を強張らせた。
「ペディヴィエール……その相手を、あなたが買って出るということですか……?」
ユーサーからの言葉に、少女――ペディヴィエールは不適な笑みで応えた。
「……母さん、この子は?」
「彼女の名前はペディヴィエール・鳳堂院。オカヤマ国の国花である《桃》の花を旗印とした《桃円騎士団》の団長です。『その神速の突きは稲妻の如く、誰一人として逃れることは叶わぬ』と謳われた、我がオカヤマが誇る、五人いる《四天騎士》の内の一人です」
あれ? 今何か不思議な単語が聞こえた気がするけど気のせいかな?
「ふむ……確かに、彼女ほどの騎士を決闘で打ち負かしたとなれば、他の議員たちも納得するかもしれませんな」
「そうですね……ですが、議員たちの中には手練れもいます。手を抜いた戦いをすればすぐに見破られるでしょう。必然と、アーサーとペディヴィエールには本気で戦ってもらうことになりますが――」
「それはとてもリスクのある行為だ」と、ユーサーは瞳で俺に伝えた。
ペディヴィエールの実力は知らないが、その勇名とユーサーの心配から察するに、相当な腕前を持つ人物であると推測できる。そのような相手と決闘をする以上、俺が大怪我――あるいは命を落とす危険性がある。
命と信頼を秤にかけた危険な行い――だが、それでも俺は、
「やろう。そいつは俺がこの世界でできる、一番の得意分野だ。だったら逃げるわけにはいかない」
音が鳴るほど胸を力強く叩き、宣言した。
「……わかりました。あなたにそこまでの覚悟があるというのなら、私は何も言いません。決闘の準備は私がしておきましょう。場所は――王城の中庭がちょうど良いでしょうね。二時間後にそこで始めるとしましょうか」
「わたくしも、反対派の議員に立会人になるように呼びかけておきましょう」
ユーサーと議員はそう取り決め、会議室に戻っていった。マーリンに事の顛末と、議員の招集を呼びかけにいくのだろう。
「決まったね。それじゃあ、お互いに正々堂々と戦おうか」
「よろしく頼む」
ペディヴィエールと握手を交わす。
「ところで、君はなんで俺にこの話を持ちこんできたんだ? 何か理由でもあるのか?」
ペディヴィエールの腹の底を探るように、彼女の桃色の瞳を覗きこんだ。
俺からしてみれば願ったり叶ったりの状況だが、彼女からしてみればそうではない。もし俺に負ければ、当然、彼女は騎士としての評判を落とすことになる。逆に戦士としては無名もいいところな俺に勝利したところで、彼女の評価が上がるわけでもない。現在、絶賛大批判を受けている女王の息子を打ち負かせと反対派から頼まれたりでもしていない限り、このような話を自分から持ちかけたりはしないはずだ。
俺の疑惑の視線を惑わすように、ペディヴィエールは小悪魔めいた笑みを浮かべ、人差し指を立てた。
「たいした理由じゃないよ。ただ、ボクが決闘に勝った場合、君にひとつだけ、お願いしたいことがあるんだ」
「お願い?」
「そう。とある人に会ってもらいたい――ただそれだけなのさ」
「とある人……まさか、政治的に俺を利用する気か? どこかの派閥に入れなんて言うんじゃないだろうな?」
「ふん、ボクを疑っているのか? ……まあ普通はそう考えてもおかしくないけど、天地神明に誓って、それは違うとだけ言っておくよ。君を悪いようにはしない」
ペディヴィエールは背を向け、「代わりに君が勝った場合は、君の即位をボクの桃円騎士団が支持する。それでいいだろう?」と言い捨て、配下の女騎士たちを連れて去って行った。
「……」
彼女の思惑が何なのかは現時点では分からない。だが、要は俺が勝てばいいだけだ。俺は決闘の準備に取り掛かることにした。
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