第14話 ヒロシマ 再決闘の、卑怯者
突然の出来事に静まり返るのも他所に、彼女は刀を抜き、殺意に漲る刃を俺に向けた。
「勝負よアーサー! あなたと私、どちらが上かここで決着をつけましょう!」
ガウェインは涙目で決闘の申し出をする。
「またかよ……」と俺は額を押さえた。
「お前な、この前決闘したばかりだろ。そう何回も決闘する意味なんてあるのか? この前はうまくいったけど、お互いに真剣を扱う以上、どっちかが死ぬ可能性が高いんだぞ」
「じゃあ木刀でも使ってやればいいじゃない! それなら文句ないでしょ!?」
「いや、そういう問題でもないんだけどな。木刀は木刀で危ないし」
「ああもう、あれこれと言い訳して臆病な男ね!? あんたはとにかく私と今すぐ勝負すればいいの! 私がそのお高くなった鼻っ柱を叩き折ってやるわよ!」
ガウェインは我侭に怒鳴りたてた。俺は目を閉じてどうしたものかと考え込んだ。するとユーサーが全身に仄暗いオーラを沸き立たせ、ガウェインに詰め寄った。
「ねえ……ガウェインちゃん……『また』ってどういうこと……? 前にもウチの子相手に、決闘なんて危険なことをしたってこと……?」
「そうよ! こいつが調子に乗っていたから、その首を刎ねてやろうとしたのよ!」
「あらあら~、そうなの~……ウチの子の首をねぇ……? それを母親の前で堂々と告白するなんていい度胸だけどぉ……――『あなた、そんなに死にたいのかしら?』」
「ひっ!?」
ユーサーは指をバキバキと鳴らし、般若の如き様相でガウェインを威圧した。おののくガウェインへと、「大丈夫よぉ、ちょっと『コキャ!』ってするだけだからぁ」と距離を詰める。
「母さん、ちょっと待った!」
俺は腕を使って二人の間に割り込んだ。流石に真っ昼間から惨劇は見たくない。
「わかったよガウェイン。その決闘を引き受けよう」
「ふえ!? ほ、本当!? 受けてくれるの!?」
喜び勇んだガウェインに、「ただし、条件がある」と俺は人差し指を突きつけた。
「『この勝負を終えたら二度と決闘を申し込まないこと』。それが決闘を引き受ける条件だ」
◇ ◆ ◇
いくつかの取り決めの後、私とアーサーは木刀を手にして距離を取った。ユーサーはまだぶつくさと文句を言っているが、決闘を力技で止めるほどではないらしい。
(アーサー……あんたは私のことを考えて決闘を引き受けてくれたのね……)
彼の想いを感じ取り、私は手に持っていた木刀を握り締めた。
もしあのまま私がごね続けていれば、最悪、私はユーサーに粛清されていたかもしれない。それは流石にかわいそうだからと、彼は私の身を案じて気乗りしない決闘を引き受けたのだ。
(アーサー……そこまで他人のために……あんたって奴は本当に……)
私は彼の顔を見ることができず、木刀を胸へと抱き寄せた。
感謝の祈りを捧げ、そして耐え切れず、私は思わずうつむいた。
――ばぁぁぁぁっかっじゃないの~~っっ!?!?!?!?
私は心の中で盛大に吹き出した。勿論、私は彼に感謝したわけではない。そこに罠があることを知らない、無知蒙昧な獲物を与えてくれた太っ腹な神様に感謝したのだ。
(本当バカっ!? 今から殺されるっていうのに、その相手の世話まで焼く余裕なんてあるのかしら!? とんだ甘ちゃんじゃない、これは世紀の大爆笑ものよ!?)
私は笑い転げたくなる衝動を覚えた。だが「今からすることを悟られるわけにはいかない」と自らを律して堪え、持っていた木刀に目を落とした。
乾性油による無色透明な輝きを放つ木刀は、しかし木でこしらえたわりにはずしりと重く、おまけに芯が不自然なほど硬い。よくよくと見れば柄と刀身の合間には、それらを分かつようにさりげない切れ込みが入っている。
(くひひっ、決闘をするのに相手の武器の検品もしないなんて、普通ありえないでしょ!? 何か「仕込んでないか」くらい調べるのが常識よねぇ!?)
そう、これこそが対アーサー用に用意した秘密兵器――《仕込み刀》だ。木刀の中には鉄の刃が納められており、木の刀身――鞘から抜き放てばそのまま真剣として扱うことができる。ただの木刀と油断した相手の隙を突く、暗殺にはうってつけの一品だ。
(愚かねアーサー! あんたは今から私に殺られるの! 恨むなら私じゃなくて、自分の甘さを恨みなさい!)
立会人のマーリンの声に木刀を構えたアーサーの姿を、私は蔑んだ。そしていつでも抜刀の構えに移行できるように下段の構えを取った。カウンターの得意そうなアーサーに、真剣を使った不意打ちを勢いで受け止めさせ、そのまま木刀ごと斬り裂く考えだ。
――これは絶対うまくいく! 勝利を確信した私は、開幕の合図と同時に弾ける様に飛び出した。
「グッバイアーサー!! せめて苦しまないように『スパーン』と一撃で決めてあげる!!」
私は伝家の宝刀を引き抜き、約束された勝利へと向かって前進した!
――スパーン!!!!
私の宣言通り、勝負は一撃で決まった。
敗因は慢心だった。
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