エピローグ其の一:悟りの決意
しばらくたって悟りは目を覚ました。目の前には顔をのぞき込むビッグディックの顔が一面に映し出されていた。そして驚きの次の声はこうであった。
「私死んだの・・・?」
それにビッグディックが答える。
「生きてるよ」
「そっか・・・」
悟りが顔を曇らせる。スナッチがそれを見てこう言った。
「何残念そうな声だしてんのよ!生きてんのよ?あなたは生きてるの?普通は喜ぶもんでしょ?」
「素直には喜べないです・・・」
「なんで?」
これはビッグディックの言葉。
「あの城が倒壊した時点でお父さんの醜態は晒されてしまいました。私の醜態も・・・」
なるほど・・・スナッチは納得し、何か余計なことを言いかけたビッグディックの口を抑えシッ!と一言いうとこう言った。
「その程度の事で生きるか死ぬかを考えてたら私なんて何回死ねばいいかわからないわよ?」
「その程度の事ではありません!」
悟りがスナッチを一喝する。そこでビッグディックがこう言った。
「俺はバカだからよくわからないけど・・・」
と置いたうえでこう続けた。
「俺は誇り高き童貞だ。だから君も誇り高き非処女になればいい・・・これじゃダメかな?」
悟りは少し目をそらして赤くなるとこう言った。
「そんな私でもお兄ちゃんは好きになってくれますか?」
「君が成長して、おっぱいとお尻が大きくなって大事なところに毛が生えたらね!」
悟りは微笑むとポケットから宝石の髪飾りを取り出した。それはボランティアの時には彼女の紙を結んでいたものである。
「これ、あげます・・・」
「い、いや悪いよ!」
ビッグディックは手で遮って受け取らないようにするが悟りもなかなかひかない。そこで悟りがこう言った。
「これ、お母さんの形見なんです」
「もっともらえないよ!」
悟りは少し考えるとこう言った。
「何でこれをあなたにあげるか、言葉にしないとだめですか・・・?」
その赤い宝石には夜明け直後の空と彼女の顔が映っていた。そしてその眼には十歳の少女らしい光が灯っていた。
そんな彼女を見てスナッチは色々なことを察すると、
これはちょろまかさないでおいてあげるか・・・
と思いこう言った。
「まあ受け取っときなさいよ。その子がいいって言ってるんだから」
ビッグディックは何か言いたそうな顔で渋々受け取った。そしてスナッチがポケットから何かを取り出した。それは・・・
「これ、どうする?」
それはPTAだった。悟りはそれを受け取ると悩み始めた。スナッチが種明かしを始める。
「ま、私はもともとPTAをちょろまかして売りさばく予定だったんだけど、こんなもの売れないじゃない?」
「え、そんな気だったの?」
ビッグディックが驚きの新事実に驚愕する。
「当たり前じゃない!なんで貧しい人々にそんなことしなきゃダメなのよ?社会はそんなに甘くない!あんたも尾宮から学んだでしょ?」
「・・・・」
ビッグディックは閉口してしまった。
ま、まあそんなこともありますよビッグディックさん!
閑話休題。
悟りはそのUSBを見てしばらく悩んだ末こう言い放った。
「もういいや!この私は昔の私。今の私じゃない!」
そしてUSBを川に向かって投げ捨てる。見事な放物線を描いたそれはピチョンッという高い音とともにどぶ川に沈んだ。そして川底でショートを起こし完全にデータは破損した。
そんなことは知らない悟りにスナッチがこう語りかける。
「いいの?もしかしたら誰かに拾われちゃうかも?」
若干ニヤけている。悟りが焦りだして川に向かおうとする。それを彼女が止めてこう言った。
「大丈夫よ。どうせ壊れてるわ。その手のプロである私が保証する!」
「・・・やっぱりクソビッチさんですねあなたは!」
「なんですって!」
またも姉妹ケンカが開始された。それをビッグディックは上る日の陰とともに微笑んでみていた。ここに“大”怪盗の最初の仕事は終了した。
スナッチと悟りのどこか漫才のようで歯切れ良いその会話はケンカというより踊りのようであった。
そしてやはりこの二人は仲がいいのかもしれない。
「「そんなわけない!」」
はい・・・。
※まだもうちょっとだけ続きます
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