真・最終章:大怪盗ビッグディック、空を飛ぶ

「ふ、ふははははは!お前らはもう逃げられん!この城はロックさせてもらった!私ですらこれは解けん!不可逆的なロックだからな!」

 尾宮はそう言い放った。それにスナッチが声を上げる。

「なんですって!?あんた私たちと心中するつもり!?」

「その通りだ!お前らにPTAの中身を見られた以上生きてはおられん!もう腹は決めている!」

 そんな馬鹿な!とスナッチと悟りは先ほど入ってきた扉を開けようとするがまるで大男が向こうから押さえつけているかの如く開かなかった。

「わかっただろ?もうお前たちは逃げられんのだ!観念しろ!」

「グヌヌ・・・」

 悟りもスナッチももはやどうすることもできなかった。ビッグディックは先ほどモノを避けるために使った窓を確認するがそこも完璧に閉じられていた。

 もはやこれまでか・・・と思ったその時!

 お尻に硬いものが当たった。どこかで触ったことがあるその感触はまるでアレの様だった。そしてすぐさまそれを確認する。それは・・・。

 チンコールの精からもらった一物だった。もらった時とは形を変え、そのなんだ・・・bピ徴している。ビッグディックはそれを見てあの時の会話を思い出した。

『たしか・・・これはどこかにはめるモノだって聞いてる。でもこの部屋ではめるところって』

 ゆっくりと部屋を見渡すビッグディック。

 それらしいところはなかった。


 ただ一点を除いては。


 そう、この最終章が始まった冒頭で説明したと思うが床には意味ありげにくぼみが存在している。

 つまり・・・。

 ビッグディックはそこに走っていきすぐさま一物を合体させた。これでカギが開くかもしれない。その一縷の望みにかけて。しかし、意図がわからないスナッチは軽蔑する。

『何やってんのよあのバカ!』

 スナッチは何も起きないだろうと思った。そしてその予想通り何も起きない。魔法陣が登場するわけでも鍵が開くわけでもない。一見何も起きないように見えた。

 そしてバカにする気持ちは尾宮も同じ。

『貴様が何をしようが同じなのだ!もう終わりだ私の人生も・・・私の名誉も・・・』

 全員にゆっくりとした死が待っている。誰もがそう思った瞬間。突然悟朗がムクリと起き上がった。そう、まだ終わっていなかったのだ。真・尾宮悟朗の脅威は・・・。

 前述の通りあの一物を指した際、見た目には何も起きていない。しかしたしかに起きていたのだ。それは外から見ればすぐに分かった。

 この城の別名を皆さんご存じだろうか?

 この城は通称水の城と呼ばれている。冒頭でも説明した通り城の外壁についた三つの象の鼻からは止め止めなく水が流れ落ちている。

 しかし、あの一物を差し込んだ瞬間、その水が止まったのである。

 もともとの水源が止まったわけではなく、尿路結石のように詰まった形で停止している。そうすればどうなるか?水圧は止め止めなく上がり続ける。それは水圧を監視していた城内部にある監視所からも一目瞭然だった。

 そして連鎖的に中庭の噴水や内部の水道。さらにはトイレの水まで詰まりを引き起こし、水圧は限界を突破しようとしていた。

 それから約五分後・・・

 ビッグディックのまえで悟朗が立ち尽くしていた。何をするでもなく立ち尽くしていたのである。何か言いたそうだが声が出てこないのか口をもごもごさせている。

 一方で水道管の圧力はついに限界に達しひざを折った。城のあらゆるところで水道管の爆発が起こり一階から順に水に沈んでいった。

 そんな中それを城内で静観する人物達がいた。

 何を隠そう、お庭番五人衆である。

 まだいたのか・・・と思う方はいるかと思うが結構仕事熱心なのかもしれない。

「ついにこの城も終わりだな・・・」

「ですね・・・」

 赤い服を着た人物の言葉に青い服を着た人物が力なく答える。この城の終了とは失業を意味している。赤い人物がこう答えた。

「お庭番はもう古いと言われ続けて二十年・・・やっとありつけた仕事だったんだがな」

「その通りですよ・・・これからどうします?俺たち・・・」

「とりあえず逃げたほうがいいな・・・」

 そこに緑の服を着た人物が割って入った。

「はーい!僕はレッドが正しいと思いまーす!」

 ダッと逃げ出した五人衆だった。

 閑話休題。

 水道管の破裂音は最上階のビッグディックたちのいる部屋にも届き、スナッチが声を上げる。

「何この音!?」

 悟朗もそういわれて気づいたのかあたりを見回す。

「な、何事だ!?」

 そしてビッグディックがさした一物に原因があることに気づいた尾宮は抜き取ろうと手を伸ばした。しかしその手を踏みつける者がいた。その人物は・・・。


 尾宮悟朗だった。


「お父様・・・これまでの贖罪のためのいい機会ではありませんか?ここらで終わりにしましょう・・・」

 尾宮が首を振って否定する。その顔は涙目になっておりみっともないという言葉を体現していた。

「い、嫌だ!これがばれたら私は終わりだ!永遠に残らない傷が残ってしまう!」

 それにスナッチが軽蔑して言い返す。

「バカ言ってんじゃないの!何人もの女の子を傷付けたくせに自分の番となれば尻尾をまく。そんなことが許されると思ってかしら?」

「か、金はいくらでも出す!だから!だから!あのUSBは表に出さないでくれ!頼む!」

 尾宮はそう言って土下座する。しかし聞く耳を持たないスナッチはその姿を一瞥してこう返した。

「考えとくわ・・・」

「そ、そんなあ・・・」

 そしてそんなやり取りの中でも水はすぐそばまで迫っていた。先ほど、悟りの秘密を暴いたロッカーも水につかり、あらゆる変態プレイ用の道具が表に出ていた。

 そしてそれらを乗せて水はついに最上階に到達した。

 スナッチの力では絶対に開かなかった扉を難なくぶち壊し、中に入ってくる水。

 しかしその水は濁流とは違い、澄みわたったきれいな水であった。徐々に上がる水位の中泳げないビッグディックをスナッチは何とか捕まえ、ビッグディックが悟りの手をつかんだ。

 そして三十秒もしないうちに部屋は完全に水につかった。

 手足を動かし何とか出口を見つけようとするスナッチの足が何者かにつかまれた。下を見るとそれは尾宮の手であった。尾宮は諦めていなかったのだ。

『ここでこいつらと一緒に死ねば・・・USBも含めてすべて壊すことができる。一石二鳥だ』

 スナッチは尾宮の手を蹴るが浮力のせいでなかなか力が出なかった。

 彼女もビッグディックもそろそろ息が続かない。

 一番顕著だったのは悟りであった。何とかビッグディックの手をつかんでいるがそのつながりはもはや蜘蛛の糸ほどの強度もなかった。

 もうだめか・・・と思ったその時!

 尾宮の力が一気に弱まった。

 悟朗が後ろから羽交い絞めにしたのだ。悟朗の手の中から何とかして抜け出そうとする尾宮だったがサイボーグの力にはかなわず、文字通り自分で自分の首を絞めた形となった。

 そして悟朗はビッグディックのほうを見て何か喋った。水の中なので声は聞こえないが口が動いているところから見るに何か喋っていた。

 最上階もついに水圧が限界を超えようとしていた。窓には先ほどの変態グッズが詰まり抜け道にはなっていない。そしてついに限界を超えたとき・・・。


 天井が壊れて一気に水が噴き出した。


 その流れに乗って三人とも空へとテイクオフ。薄暗い空の上空数百メートルまで投げ出された三人は気を失いそうになりながらもなんとかバランスを取って軟着陸を目指す。

 しかし悟りには刺激が強すぎた。完全に気絶してしまいビッグディックの手を離した。

 これはまずいと空中で平泳ぎをして何とか近づこうとするビッグディック。しかしそんなことで近づけるわけもなくただただ無駄な時間が過ぎていく。

 そこでスナッチが一計を案じる。

「あんた!そのマントパラシュートにならない!」

「で、出来るかなあ・・・」

「出来る出来ないじゃないの!やるの!」

 三人の眼前には夜明けの街並みが広がっている。普通のスカイダイビングならどれだけ気持ちいいだろう・・・しかし今は生死がかかっている。ビッグディックは何とかしてマントをパラシュートに変更しようと画策する。

 スナッチは自身にかかる空気抵抗を操り悟りを捕まえる。そしてそのままビッグディックのもとへと行き、悟りを渡しマントを切る、結ぶのみで改造する。

 まさに命を懸けた空中サーカスだった。

 奮闘する二人だったが予断は許さない。もはや地表はすぐそこである。激突するかパラシュートが間に合うか・・・。

 だんだんと近寄る地表。ビッグディックは冷や汗を垂れ流しスナッチの動向を見守った。彼女は冷静にてきぱきとマントをパラシュートに改造していった。依然として悟りは気絶している。そして結果は・・・


 スナッチの勝ちだった。


 地表から20m地点で完成したパラシュートは三人の体重を何とか支え土手へと軟着陸した。早朝の薄暗い土手にはスナッチとビッグディックの荒い息遣いと汚れた川の音だけが響いていた。

 そう三人はPTAを盗み出し、生きて帰ることに成功したのである。

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