最終章中編: “男” の戦い

 長い長い夜が明けようとしていた。

 窓からはかすかに陽光が差し込みビッグディックと悟朗の顔を照らした。深い青に染まった空はこの上なく透き通っていた。そして朝のさわやかな風が対峙する二人の髪を揺らす。

 静寂の中巨大な機械式時計の時を刻む音だけが響いていた。

 まさにクライマックスには十分なシチュエーションである。

 二人はにらみ合い、相手の出方を探っていた。相手の一挙手一投足に集中し息を吸うのもはばかれる。そんな状況が続いていた。

 そして最初に動いたのはビッグディック。天井にマグナムハンドをひっかけ相手の後ろ側に回ろうとする。しかしそんなことは百も承知だった悟朗は着地に合わせて飛び蹴りを食らわせる。スナッチの言葉でそれに気づいたビッグディックは再浮上。今度は地面に向けてマグナムハンドを発射し、速度を乗せた蹴りをお見舞いする。

 先ほどの飛び蹴りから体制を戻せないでいた悟朗はもろに受けてしまいビッグディックにマウントポジションを取られた。

 そしてビッグディックは何とか相手をひっくり返そうとするがなかなかひっくり返せない。もたもたして隙を見せたビッグディックを悟朗は高く持ち上げ思いっきり壁に投げつけた。

 ほぼ直線の軌道を描いて壁に激突するビッグディック。

 痛みで悶絶する彼にゆっくりと近寄る悟朗。ビッグディックは何とか立ち上がろうとするが壁を支えにしてもなかなか立ち上がれなかった。

 絶体絶命を体現したようなこの状況。

 しかしビッグディックはもうろうとする意識の中で壁に小さなくぼみを見つけた。

 そのくぼみに手をかけて立ち上がろうとするビッグディック。

 そこで尾宮の表情が変わる。まるで何かまずいものを見つけてしまったようなそんな顔である。その表情の意味はすぐに分かった。

 なんとそのくぼみは隠し扉へ続くドアのスイッチだったのである。

 そして尾宮の後ろの壁に穴が開き部屋が現れる。そこはパソコンルームであった。

 スナッチと悟りの二人はその部屋に向かい突進する。多分そこにPTAがある。二人はそう直感していた。そしてそこに立ちはだかるのは尾宮勝悟。

「お前らは絶対にこの向こうへ行かせん!この先は私の空間だ!私の聖域だ!入るんじゃない!人には誰も犯してはいけない聖域があるんだ!私は人権によって守られている。これは誰にでも与えられた権利だ!お前らには邪魔されん!」

 それを聞いたスナッチが尾宮を思いっきり殴り倒した。まるでおもちゃのように四肢をぶちまけて地面に転がる尾宮。そんな姿を一瞥してスナッチが一言。

「子供に人権は許さないのに自分はそんなこと言うのね・・・」

「だから私は社会を・・・」

 スナッチはそれを遮り言い放った。

「うるさいわよ!このゲス男!あんたのせいでこの子がどのくらい苦しんでいたか知ってるの?男にとっての性行為と女にとっての性行為は違うの!あんたは犯してはならない空間を犯してしまったのよ!あんたが言うところの人権をね」

 ただただ気圧される尾宮。そんな彼をよそにスナッチはよどみなく続けた。

「社会が何よ!社会に適応するのは確かに重要よ!でもねえ・・・社会や金を盾にして自分の犯罪行為を正当化するあんたは人間なんかじゃないわ!ただの雄犬よ!ロリコンのね!」

 見事に意趣返しにあった尾宮はたまらず悟りに助けを求める。しかし悟りは・・・

「あなたなんかお父さんじゃありません。さようなら」

 ただひたすらに冷たいその言葉は勘当を意味していた。

 スナッチは尾宮に痰を吐き捨てると隠し部屋の中に入った。悟りもそれに続いた。

 一方ビッグディックは・・・

 絶望的な状況を打破できずにいた。

 先ほどのくぼみも意味をなさず、立ち上がることはできなかった。そこに助け船が現れた。

「おい!悟朗!そんな奴はどうでもいい!中に入った二人をぶっ殺せ!すぐにだ!」

 声の主は尾宮だった。その声に悟朗は振り向き機械音声でこう告げた。

「すいませんお父様・・・僕はこの男を倒さなければならないんです。それが僕にプログラムされた命令です。それとどんなに堕ちたとしても・・・」

 少しの間をおいてこう言った。


「僕に妹は殺せません」


 それを聞いた尾宮が言い返す。しかし悟朗は頑として命令を聞こうとしない。平行線を行く問答の中ビッグディックは勝機を見出していた。

 悟朗は後ろを向いている。

 つまりお尻をオグリングで調べることができる。

 そして結果はやはり痔だった。

 そして押し問答の最中、悟朗が腰をかがめた瞬間・・・

「今だあ!!!!」

 その掛け声とともにビッグディックは悟朗のお尻を撃ち抜いた。

 悲鳴をあげず、どこかやり切ったような表情で倒れる悟朗。

 そしてビッグディックはやっと立ち上がれるようになりじりじりと尾宮に近づいて行った。

 尾宮は完全に詰みと言える状況に陥っていた。

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