最終章前編:大怪盗ビッグディック、尾宮総裁と対峙する
「初めましてだな・・・」
しわだらけの男が三人に声をかける。その男はむろん尾宮である。
そこは巨大な大広間であった。おそらくこの城で唯一普通の場所。ブスガイド諸島で王様が臣下達と謁見したであろうその場所はブスガイド諸島の伝説と伝統に満ちていた。
尾宮の奥の壁にはタイルで描かれた巨大な像とそれらを取り囲む裸の女性たち。
左の壁には地獄の様子だろうか?尻を抱えて苦しむ人々を見下ろす恐ろしい壁画。
ビッグディックから見て右サイドにはおそらく天国であろう天使たちとその神が描かれていた。
そしてビッグディックら三人の背面には股間を露出した勇者が描かれ巨大な剣を持っている。
床には巨大な口を開けた化け物が書かれておりその口の中央は意味ありげにくぼんでいた。そのすべてが極彩色の原色で描かれている。まるで絵本の中にでも迷い込んだようなそんな部屋だった。
周りに置かれている机には調度品が並べられ、ここにあるものを全てひっくるめて数億円でも買えないだろう。
恐らくこの一部屋だけで十分な文化的な価値を持っている。
そんな部屋が最後の戦いの舞台だった。
スナッチはまともな部屋だったことに驚き、ビッグディックは奮い立つ。
そして最初に三人の中で口を開いたのは悟りだった。
「お久しぶりですね、お父様」
それを受けて尾宮がカイゼル髭をピクッと揺らし静かに言い放った。
「私の事はご主人様と呼べと言ったはずだが?」
「私はあなたのペットでも道具でもありません。ただの“お父様”です」
「貴様・・・」
尾宮はこう言うとドスを利かせてこう言い放った。
「悟り!貴様はわかっているのか!?誰のおかげで学校に行けてると思っている!食事も、服も、寝床も!お前を養っているのは私だ!子が親に逆らうんじゃない!」
それを受けてスナッチが言い返す。
「子供は人間であってペットではないわよ!誰が養っているかなんて関係ない!そんなこともわからないなんて親失格よ!この変態男!」
尾宮は眉をピクリと動かしすでに強い語気をさらに強める。
「お前はわかっていない!子育ての大変さを!金を稼ぐことの難しさを!お前は高校生らしいな!高校生の分際で大人に指図するんじゃない!無礼者め!社会ではお前のようなものをクズと言うんだ!」
スナッチも悟りも何か言いたそうだが尾宮の語気に押され二の足を踏んだ。しかしそんなこと関係ない奴が一人いる。そう、この物語の主人公・・・。
ビッグディックである。
「じゃあお前は社会がお前を許していると言いたいわけだな?」
それに尾宮が答える。先ほどの語気からは打って変わって今度は諭すような声である。
「その通りだ。社会というのは厳しい。君たちが思っているほどに世の中は単純ではないのだ。私が通報していないのも君たちを思っての事だ・・・ここで退けば私は許してやる。もし退かないならば警察を呼ぶとしよう」
それにスナッチは若干顔をゆがませた。しかしビッグディックは動じない。
「いいよ、呼べば?」
「何?」
尾宮は一瞬たじろいでこう答えた。そしてビッグディックが続ける。
「俺たちはあんたの秘密を知っている。わかるだろ?お前がしてきたことだ・・・。警察を呼べるもんなら呼んでみろ。どうせできないだろ?」
尾宮は何も言い返せなかった。まさしく図星、この上なく図星である。PTAという非合法なダイアや悟りに対する性暴力、そして非合法な場内の設備がすべて表に出てしまう。
尾宮は思った。こいつらにハッタリは効かない!しかしこいつらも捕まるのは間違いない。つまりこいつらは、少なくともこの男は、
私と心中するつもりだ!
しかし、そうはいかない。そう思い尾宮は冷静に言い返す。
「残念ながらそうはいかない。私はいくらでももみ消せる。この程度の事で私の立場は揺るがない。君たちのように社会を経験していない子供とは違う。私は社会に祝福されているのだ」
ビッグディックはさげすんだ目を向けてこう言い放った。
「社会は許しても俺が許さない」
そしてビッグディックは渾身の大見得を切った。
「俺の名前は大怪盗ビッグディック!尾宮勝悟!お前を絶対に許さない!」
尾宮は身じろぎ一つせずこう言い放った。
「ならその減らず口を黙らせてやろう!こい!サイボーグ悟朗!」
その言葉とともに天井がパカッと開いて三メートルはあるかという巨大ロボットが現れた。一昔前のロボットのような質感の体に柔らかい素材で作られた突起物が股間についている。そして顔はと言うと・・・
完全に尾宮悟朗である。
「お、お兄ちゃん!?」
悟りが目を見開いて驚愕する。スナッチはその科学力に魅了されていた。
『股間のあれは置いといて何でこんなものが作れるのにあんなバカな戦いを挑んできたのよ』
至極ごもっともである。
一方ビッグディックは至極真面目にオグリングで弱点を探していた。サイボーグでも元が人間ならオグリングは使えるらしい。しかしなかなか弱点らしい弱点が見つからない。
三人がまごついているとサイボーグ悟朗の股間の柔らかい突起物が膨れ上がり硬化した。大きさはと言うと・・・ま、まあビッグディックといい勝負だな!
『どうせあれをするんでしょ?知ってる』
悟りも多分あれが来るだろうと思ってビッグディックの後ろに逃げ込む。いまさら恥じることもないスナッチは腕を組んで仁王立ちで受け止める姿勢を崩さなかった。
そして尾宮が叫ぶ。
「やれ!悟朗!」
そして硬化した股間のそれが発射された。
「「発射されるの!?」」
スナッチと悟りの突っ込みがハモる。そしてモノの狙いはビッグディックであった。ビッグディックはマグナムハンドを壁にかけると床から離れ遠心力で空を飛ぶ。しかし、モノはビッグディックを完全にロックオンしており空を飛んだ彼を最短ルートで追いかける。
それに気づいたビッグディックは今度は窓枠にマグナムハンドをひっかけて窓の外を一周して片方の窓に戻る。しかしそれでもモノをまくことはできなかった。なおも追いかけられ空中を飛び回るビッグディックと追いかける悟朗のモノ。
そしてサイボーグ悟朗の頭にマグナムハンドを引っ掛けた時だった。ちょうど後ろを飛んでいたビッグディックが悟朗を見るとオグリングのUIに弱点が表示された。
それはお尻の穴であった。
覚えているだろうか?尾宮家は全員痔持ちである。それは悟りや悟朗も痔持ちなのだ。そしてこのロボットは尾宮悟朗のサイボーグ。つまり、これを製造した科学者はそんなところまで忠実に移植したのだ。
スナッチや悟りに変わって言おう!そいつは多分バカだ!
閑話休題。
それを見たビッグディックは天井にマグナムハンドをかけると一度大きく飛び上がりモノを上に誘導した。そして悟朗の頭にそれをかけ替えて股の下をくぐった。そしてそのまま振り子のように上へと上がる。
ここで思い出してほしい。モノは最短距離を通る。つまり三角関数で最も近い道を計算して弾道を割り出すわけだ。そしてビッグディックがいる位置とモノの位置関係の直線上に尻の穴があった。
それを見て尾宮が口をあんぐりと開けて硬直する。彼はこれからどうなるかが予想できたのだ。なお、スナッチと悟りは意味不明でぽかんとしていた。
そしてビッグディックが予想していたのかは知る由もないが、尾宮の予想は悲しいことに当たってしまった。
モノは尻の穴に直撃したのである。
声にならない悲鳴を上げるサイボーグ悟朗。そしてビッグディックはマグナムハンドを外して着地する。そこでかっこいい決めポーズをとるのだが、それとモノの爆発が一緒だった。
そしてサイボーグ尾宮は地響きとともに膝を崩し四つん這いになった。
図らずもスーパー戦隊ものの登場シーンの様になったのだがそれが悟りに受けたのか珍しく目を輝かせて拍手をする。それを見てスナッチがたしなめる。
「騙されちゃだめよ?あれ、ただ単にケツの穴で爆発したのと同時にポーズしただけだからね」
悟りは八ッ!と我に返って赤くなる。
そしてビッグディックはマントをたなびかせるとこう言った。
「尾宮!次はお前の番だぜ!」
「ククク・・・残念だったな!これで終わりだと思ったか?」
それを聞いてビッグディックがひるみ、先ほどのポーズが崩れた。スナッチと悟りは終わらない悪夢にうなされている感覚だった。
『『このバカな戦いまだ続くの?』』
そんな二人をよそに見る見るうちにサイボーグ悟朗は溶けていき、一つの球体になる。そして人間の形を形成した。そして銀色だった表面は色が変わり最終的には一人の人間を形成した。
サイボーグ悟朗の最終形態。真・尾宮悟朗の誕生である。
服装は白い褌に赤い鉢巻、黒のレザーブーツに星型のサングラスをかけている。スナッチが心の中で突っ込んだ。
『何この変態!?』
一方で悟りは対立していたとはいえ血縁関係のある本物の兄が人類史上最低ともいえる醜態をビッグディックの目の前で晒していることが恥ずかしくいてたまらなかった。
「お、お兄ちゃん・・・や、やめてほしいな・・・」
『気持ちはわかるわよ悟り・・・』
スナッチも同情せざるをえない。
しかしビッグディックは大まじめである。オグリングをフルに活用し悟朗の急所を探すが表面上はどこにも見当たらない。背後に回りもう一度尻を狙うということもできるが、どうすればいいか?
ビッグディックはこのような土壇場では頭脳の働きが常人並みになる。でなければここまで勝ち上がれなかっただろう。
いつになく真剣なビッグディックに羨望のまなざしを向ける悟り、あきれてものも言えないスナッチ。
そしてこの長い夜もついに明けようとしていた。
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