第十五話:悟りの秘密と最強の四天王

 次の階はついに最後の四天王がいる。三人は期待してドアを開けた。そこは・・・。


 限りなく広い更衣室であった。


 大小数多のロッカーが並べられ数十平米はある巨大な更衣室である。

 それを見て三人はもはや困惑することはなく。当然のごとく無言で中に入った。しかしそんな彼らにも懸念はあった。それは専らこの部屋に誰もいないところから来ていた。

 いい際の音が聞こえず、本当に無人なのである。

 使われた風もなく、汗のにおいもしない。すべてのロッカーは新品同然できれいに使っているというには不自然なほど使用感がなかった。

 スナッチは色使いや、全体の雰囲気から多分女子ロッカーではないか?と考えていた。そしてビッグディックはかつてのトラウマがよみがえり真っ蒼な顔をしている。

 冒頭で言った通り彼はかつて更衣室の盗撮で高校を退学になっている。彼自身かなり軽い気持ちでやったのだがそれが最悪の結果を招いたためそれ以来トラウマになっていた。

 一方の悟りはビッグディックの顔色を見て話しかける。

「どうしたんですか?お兄ちゃん?何かあったんですか?」

 それを聞いたスナッチがビッグディックの顔を覗き込む。

 そしてスナッチは、ははーんと納得すると口を開いた。

「悟りちゃん。このお兄ちゃんはねえ、高校を退学になってるのよ!なんでかって言うとねえ・・・」

「わー!わー!」

 そう言ってビッグディックはスナッチの声をかき消そうとする。そして一通りワーワー言ったあと、ビッグディックは

「俺はもうここにいたくない。」

 と言って更衣室を出ていった。

 スナッチはフウッと一つ息を吐くと悟りにこう告げた。

「じゃあここからは二人でいこっか?」

「ですね。ちなみにさっきの続きは何なんですか?」

「あとで教えてあげる」

「オッケーです!」

 二人は階段を探し始める。しかし更衣室の中はかなり不気味であった。

 なにせ人が誰もいない。隠れている風もない。

 階段を探して登れば解決なのだがスナッチの脳裏にはこの部屋には何かあるという思いがよぎっていた。

 しかし階段を見つけたらビッグディックを呼んで登ればいい。しかし小一時間探しても出口は先ほど入ってきた扉一つしかなくどこにもない。窓もない。

 そこで二人はこう思った。おそらくこのロッカーに秘密があると・・・。

 二人は手分けしてロッカーを総当たりで調べていく。しかしほぼすべてのロッカーにカギがかかっており、空いているものの中は空だった。

 総当たりで調べていくうちにスナッチは名札が目に留まった。すべてのロッカーに“山田久美子”や“里崎愛”と言った生々しい名前が書かれており名札のついていないロッカーのみ決まって開いている。

 そしてスナッチが調べていくうちに一つだけおかしなものがあった。名札には“尾宮悟り”と書かれておりその下には・・・


“四天王”


 ・・・と手書きの紙がガムテープで貼ってあった。スナッチは思った。

『舐めてんじゃないの?』

 当然である。四天王がロッカーというのは限りなく前衛的で、ある意味では不気味でもあった。そして名札に悟りの名前がある。怪訝に思ったスナッチは悟りを呼んだ。

「悟り!こっち来て!」

 遠くでおそらくわかりました!と思しき声が聞こえしばらく時間がたって悟りが到着した。息を切らした悟りが落ち着くのを待ってスナッチが声をかける。

「これ何かわかる?」

「これは・・・」

 悟りはそのロッカーを見て言葉を詰まらせる。なんだろうこれは?こんなもの私は知らない。でも入ってるとすれば・・・あれしかない!

「その・・・あんまり開けないでほしいです・・・」

 しかしその言葉をかけるより前にスナッチはロッカーを開けていた。その前に悟りが飛び込む。どうやらどうしても見てほしくないようである。

「ちょっとどきなさいよ!見えないじゃない!」

「お姉ちゃんは見なくていいんです!こんなもの!」

「とにかくどきなさい!」

 スナッチは力ずくで彼女をどかすと中を見た。

 そこには、大量のアダルトグッズが入っていた。アダルトグッズと言えど、自分でするためのモノではなく、専ら二人でするときのものである。そしてそのすべてが明らかに大人用ではなくサイズからして完全に子供用であった。つまり・・・。

「あんた、もしかして・・・」

 悟りは声を詰まらせて、なかなか言葉が出てこなかった。

 これまでずっと彼女が隠していた知られたくない秘密。

 その心の奥底に眠る闇の根源が表に出た瞬間であった。

 そしてなにも言えない悟りに対してスナッチが言葉をかける。その言葉はこれまでの彼女の言葉からは感じられなかった優しい言葉であった。

「なるほどね・・・これがあんたがこの城から抜け出したい秘密だったのね。どうしてすぐ言わないのよ?もっと早く言ってくれればあんな口げんかにならなくて済んだのに・・・」

 悟りはスナッチをにらみつけると悲しみと怒りと悔しさ、その全てをシェイカーでかき混ぜたような声でこう言った。

「言えるわけないじゃないですか!あなたが聞いてきたときはいつもお兄ちゃんがそばにいました!こんなこと知られたら、私、嫌われちゃう!やっと・・・やっと来てくれたのに・・・やっと・・・」

 言葉は徐々に細くなっていき最終的には涙に変わった。目じりから止め止めなく流れるそれは少女が流すにはあまりにも冷たい涙だった。

「いつからされてたの?」

「な、七歳くらいから・・・」

 スナッチは頭の中で尾宮勝悟のプロフィールと現状を結び付けた。

 尾宮勝悟は「全少連」の会長であり、小児性愛者であることは噂程度に流れていた。しかし彼は自分の性癖とは逆の事を行っていく。青少年の健全な育成のためと称して創作上の小児性愛を禁止した。それが約三年前である。

 つまり、悟りが性的暴行を受け始めた年齢と合致する。

 その結果幼年者に対する性的暴行は増えていき社会問題化することとなる。そして勝悟自身も小児性愛者。性欲の行き場を失った彼は他のあまたの犯罪者と同じく暴走してしまったのだろう。

 しかし彼は運よく権力があり、金もあった。

 それだけの事なのだ。それだけで彼はこれまで社会的に死ななかった。

 捕まることも、非難されることもなく被害者を作り続けた。

 何と不条理なことなのだろう。

 そしてスナッチが推測するにこのロッカーに書かれている名前は・・・。


 性的暴行の被害者・・・


 そこまで考えて悟りのほうへ向くとスナッチはもう一度確認した。

「あんたあの男に惚れてるの?」

 悟りはしばらくの無言の後、詰まりながらこう答えた。

「わ・・・か・りま・せん・・・」

「そう、じゃあ・・・」

 スナッチがふと悟りから目線をそらすとそこにはビッグディックが立っていた。何かまずいものでも見たようなそんな顔である。その感情はあいにく正解である。君は見てはいけないものを見てしまったし聞いてしまったのである。

「あ、あんた!」

 その声で悟りも振り向いた。顔は見る見るうちに絶望に染まり目は丸くなっていた。そしてごまかすようにこう言った。

「お兄ちゃん!違うの!これは・・・」

 しかしビッグディックはその言葉を遮った。

「俺わかんないやそんな難しいこと。俺バカだし耳遠いからさ!」

 悟りは涙をぬぐった。その眼には少しだけ、ほんの少しだけだが小学五年生らしい輝きが戻りつつあった。そしてビッグディックは先ほどの発言にこう付け足した。

「俺、何でかわからないけど尾宮は処罰しなきゃダメだと思う!だからさ・・・」

 ビッグディックは悟りの肩に手を置くと満面の笑みでこう言った。


「次にすすも!」


 悟りはこくんと頷いた。そのとき、真っ白な壁だったところがバタンと倒れ階段が現れる。どうやらこのロッカーがカギだったらしい。このロッカーが四天王であることはおおよそ間違ってはいなかったと言う事である。

 次回に続く。

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