第十二話:大怪盗ビッグディック、ショッピングをする

 三人は自動ドアの前に立っていた。その上の看板にはYAGOと書かれている。おそらくここはスーパーなのだろう。しかしなぜ城の中にスーパーがあるのか?普通はこう思うがもはやこの三人はこの程度の事では驚かなくなっていた。

 三人にとっての問題はもっぱら入るか入らないかである。そんな中とくに問題視されたのがスナッチの格好である。

 何せ彼女は全裸。

 下手をすればただの変態として捕まったうえで書類送検されてしまう。かといって入らなければ先に進めない。そこで・・・

「ねえ、あんた中で服を買ってきてくれない?」

「服?」

「お金は渡すからそのお金で買える範囲のものを買ってきて頂戴。私はそこのトイレにいるから」

「わかった!」

 駆けだそうとするビッグディックを呼び止めて悟りがこう言った。

「あ、待ってください!私も行きます!」

 悟りはにやりと笑ってビッグディックに付いて行った。スナッチは若干不穏な気配を感じたが先ほど叱られたことだし大丈夫だろうと思い、女子トイレの個室に入った。

 そしてビッグディックと悟りは中に入りスーパーの中を探索する。その中はどう見ても普通のスーパーでこれまでのナイトクラブだったりクイズ会場だったりと奇怪だった他のフロアとは一線を画す構造であった。

 言われてみればここが一番奇妙なフロアともいえる。なにせ普通のスーパーなのである。洋服売り場を探している間、悟りがいろいろと観察するがどこもおかしなところはない。そして二人は洋服売り場に到着した。

 そこで悟りは・・・

「お兄ちゃんはそこで待ってください!」

「な、なんで?」

「じゃあお兄ちゃんに女性ものの下着を買う度胸はありますか?」

 ビッグディックは若干考える。確かにそんな度胸はない。これくださいと言って店員さんからどんな反応が返ってくるのかを考えるとぞっとする。

「わ、わかったよ・・・任せた。え、じゃあ俺は何をすればいいの!?」

 悟りはさも当然であるかのようにこう言った。

「荷物持ちです」

「はい・・・」

 そこで悟りはにやりと笑うとこう言った。

「安心してください!きっとお兄ちゃんが喜ぶものを買ってきますよ!」

 ビッグディックは、俺が喜ぶ?と怪訝に思ったが解答にはたどり着けずに思考を停止した。そして彼は力なくベンチに座った。


 しばらくたって・・・


 悟りがビッグディックのもとへと帰ってきた。手には袋が三つ抱えられている。それをビッグディックに渡すと悟りはこう言った。

「さあ、早く持って行ってあげましょう!お姉ちゃんが風邪をひかないうちに!」

「そうだな!」

 ビッグディックは元気よく答えて二人はYAGOの外に向かった。そして「ありがとうございました」という機械音声とともに自動ドアを出ると女子トイレに向かった。そこでビッグディックが二の足を踏む。

 その姿を見た悟りが促すようにこう言った。

「どうしたんですか?お兄ちゃん?いまさら何が怖いんです?女の子の目の前で一物を自分から出したり、お姉ちゃんの全裸を凝視したりしたのに・・・」

 その言葉一つ一つがビッグディックの胸に突き刺さった。そして悟りが続ける。

「・・・私が見ときますからどうぞ、中に入ってください。それともお姉ちゃんに風邪をひかせるつもりですか?男を見せるなら今ですよ?」

 男を見せる?その言葉に反応したビッグディックは意を決して女子トイレに入る。悟りはその姿を見送ってこうつぶやいた。

「私はもう暴言は吐きませんが・・・このくらいはさせてもらいます。ごめんねお兄ちゃん。私はあなたたちがカップルになるなんて許せないんです。」

 そんな悟りの言葉がビッグディックの耳に入るわけもなくビッグディックはスナッチを呼んだ。すると手前から二番目の個室から応答があった。

「あ、あんた!なんで入ってきたのよ!ここ女子トイレよ!ばっかじゃないの!?」

 ビッグディックは若干委縮するとこう言った。

「だ、だって悟りちゃんが入れって・・・」

 スナッチとしてもさっさと服を着たいため、もろもろの行動に目をつぶりビッグディックに服を渡すよう促した。それを聞いた彼は袋を三つ投げ入れると女子トイレの外に出た。

 そして外で何をするでもなく時間を潰していると中からスナッチが顔を真っ赤にして出てきた。ビッグディックはその服装を見てびっくりする。そして悟りもあからさまに驚いた仕草をした。明らかな確信犯である。

 スナッチの服装は胸もお尻もお腹もほとんど隠れていないきわどいコスプレのような格好であり、背中には小さな悪魔の羽がついていた。頭には角が二つ付いていた。それを見たビッグディックは驚きとともに困惑と疑問が頭を走った。

「え、ええ。な、なんで・・・?」

「何でじゃないわよ!あんたなんてもの買ってきてるのよ!こんなもの女の子に着せるって・・・あんたコスプレの趣味もあったの!?こんなの全裸より変態じゃない!」

『も?』

 その言葉に反応したのは悟り。そしてビッグディックは弁明する。

「じゃ、じゃあ返品して新しいのを・・・」

「もう無理よ!着ちゃったんだから!」

 何の疑いもなく着るほうもおかしいがこれを選んでおいて傍観している悟りの性格にも問題がある。そしてビッグディックは目のやり場に困りながらこう言った。

「じゃ、じゃあ新しいの買ってくるから・・・」

「私そんなお金ないわよ!あんた、どのくらい持ってるの?」

 ビッグディックは財布を取り出してひっくり返した。すると百円玉が三枚出てきた。

「あんた、三百円しか持ってないって・・・それでよく新しいの買ってくるとか言ったわね!」

 ビッグディックは何かを閃いたのか頭の上に白熱電球が現れた。

「雨合羽なら・・・」

「どうせ良くても半透明でしょ!余計変態度が増すじゃない!大喜利やってんじゃないのよ!」

 すると突然悟りが笑い出した。それを聞いて二人はいったんケンカを中断する。

「お姉ちゃんもお兄ちゃんも今回はそれで諦めたらいいじゃないですか!どうせこの城にまともな人なんていないんですし誰も気にしませんよ!」

 二人とも納得できる状況が悲しかった。スナッチは言い返そうとしたが先ほどのビッグディックの言葉もあり納得して妥協した。全裸よりはよっぽどましである。

 そして三人はついにスーパーの中に入った。

 すると先ほどまでにぎわっていたスーパーに人はおらず、静寂に包まれていた。どこか薄暗くなっている店内は何か出てきそうな雰囲気を醸し出していた。それを怪訝に思う三人だったが考えていてもしょうがないので中を探索する。スナッチにとっては幸運この上なく、自分の醜態をさらさずに済んだことに安堵していた。

 ビッグディックはこの怪談のような状況に終始びくびくしており物音が立つたびに驚いていた。

 そう、この男は“死”は恐れないが、“死んだ者”は怖いのである。

 その姿を見た悟りは若干失望した目を向けていた。好感度の振れ幅が大きい男である。

 そして三人が食肉売り場に到着すると勝手に動く子供用の車型カートを見つけた。それを見てビッグディックは悟りに飛びつく。悟りは、大丈夫ですよ、お兄ちゃん。となだめるが彼は見るからにおびえていた。そんな小さいものをさらに小さくしているビッグディックをよそにスナッチが声をかける。

「誰よあんた!」

 するとそのカートはゆっくりとこちらを向いた。そして中から小さな男が出てきた。ビッグディックより背は低く、顔に蓄えられた無精髭からして成人はしている。服装は裸にエプロンをつけており名札には店長と書かれていた。

「聞かれたなら答えるしかねえなあ・・・俺はここの番人。四天王の一人“ドン・キトーテ”だ!気軽にキトーって呼んでくれ!」

 それを聞いて悟りはこう思った。

『やっぱりこの城にはまともな人がいない!』

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