第十一話:大怪盗ビッグディック、とその仲間たち

「あんまりこっち見ないでよ!」

 階段を上るスナッチがビッグディックの視線を感じてこう言った。ビッグディックはすぐに目をそらす。この微妙な距離感にラブコメの波動を感じた悟りが何とか引き剥がそうとする。

「別にお姉さんのスタイルはそこまで誇るものでもないと思いますよ?」

 これに若干プライドがあったスナッチが買い言葉を返す。

「うるさいわね!あんたも人のこと言えるの?このすってんとん!」

 それを聞いた悟りが階段の踊り場で足を止める。それに呼応してスナッチも足を止め、彼女たちの足音が聞こえなくなったビッグディックも足を止める。

「すってんとんとは何ですか?聞き捨てなりませんね・・・」

「何よ!あんたがすってんとんじゃなかったらほかに何よ?なに?あんたはもう第二次性徴は始まってるっていうの?」

「この前初めてがきました。それに私はまだ小学五年生。有望な成長株です。それにあなたとは違って人前で全裸になって体を見せつけるような変態プレイはしません!」

「なんですって!あれがなきゃ勝てなかったじゃないのよ!なに?あんたならもっと他にいい方法があったっていうの?」

「時間がなかっただけです。時間さえあれば思いついてました」

 そして二人は無言になりにらみ合いが開始される。まあ“たられば”の話をしてもしょうがないがそれをしょうがないと思うにはまだ二人とも年の功が足らない。

 二人とも仲が悪くこのままではチームビッグディック分裂の危機である。

 そこでさすがにまずいと思ったビッグディックが振り向いて仲裁に向かおうとする。しかし振り向こうとしたその瞬間に・・・。

「動くな!」

 とスナッチの檄が飛んだ。

「振り向いたらショウナッツの裏コマンドであんたの粗末なモノを潰してやるわよ」

 ビッグディックは驚いて冷や汗が止まらなくなる。つまりショウナッツは孫悟空でいうところの“きんこじ”である。決してチンポジではない。ビッグディックとしても二人がいなければこの城は攻略できないことは彼も承知であった。

『どうしたものか・・・』

 ビッグディックは足りない頭で思い悩んでいた。悟りちゃんは助けたいし、スナッチがいなきゃこれからの罠を突破できないだろう。できれば仲直りしてほしい。とはいえ、女の戦いはよくわからない。

『うーん・・・どうしよう?』

 一方二人のにらみ合いの均衡をスナッチが破った。

「あんたがどうしてそんなにこの城から出たいのか知らないけど、この男に頼らなくても出ていけるでしょ?お父さんに頼ればいくらでも出ていけるんじゃない?なのになんでわざわざこんな回りくどいことするわけ?それに学校には行かせてもらってるんでしょ?だったらそのまま逃げれば解決じゃない?」

 ウッっと悟りが一瞬ひるんだ。しかしすぐに体制を整え反撃する。

「・・・と、とにかく私にはここを抜け出せない理由があるんです!」

「じゃあその理由を言ってごらんなさいな?言えないならあんたは置いていくわよ」

「・・・・・」

 悟りは押し黙ってしまった。しばらくの無言ののち小さな声でこう言った。

「・・・言いたくないです」

「何よ。聞こえない!」

 悟りは今度は大きな声で言い返す。

「言いたくないです!とにかく今は言いたくないんです!」

「だからなんでなのよ!言えないような理由があるわけ!そんなんだから・・・」

「待った!」

 スナッチが追い打ちをかけようとしたときにビッグディックが振り向いて割って入った。顔は赤くも青くもなくどこか決意を決めたように凛々しい表情をしている。物語始まって以来の快挙である。

「何よあんた!そんなに裸が見たいわけ?それとも玉を潰されたいの?」

「潰したきゃ潰せ!潰せるものならな!」

「・・・・」

 スナッチはビッグディックが普段見せない威圧がこもった声に押され、押し黙った。そしてビッグディックが続ける。

「スナッチが何でそんなに怒ってるかわからないけど・・・僕はスナッチの力が必要だ!なぜなら僕はバカだから。バカはバカなりに考えて動いてるし、ある程度自分はできるって思ってる。でもね、バカはバカなんだよ・・・悲しいことに・・・」

 スナッチと悟りは淡々と流れるビッグディックの説教に耳を背けることはできず、かといって何も言えないでいた。

「認める。僕は頭が悪い。スナッチの数十分の一だ。嫌だけど・・・確かに素性のわからない女の子が一緒に行動するのは嫌だろう。でも僕はこの子と約束したんだ。この城から盗み出すって!」

「・・・」

 スナッチにとってこれは予想外だった。同時に少しだけ男気を見せたビッグディックに心を震わせられてもいた。そしてビッグディックが続ける。

「僕はバカだけど、一度約束したことは曲げない!だから悟りちゃんは絶対に盗み出す!だからスナッチも協力して?僕のパートナーだろ?」

「わかった・・・」

 スナッチは先生から説教を受けた子供が最後にしゃべる言葉と同じトーンでこう言った。しかしビッグディックの説教は矛先を変えて続いた。

「それと悟りちゃん!」

「は、はい!」

 虚を突かれた悟りは普段では出さないような甲高い声を出した。そしてそれを聞いたビッグディックがこう続ける。

「君も相手は初対面だし、盗み出してほしいって言ったのはそっちだよ?何が気に入らないのかわからないけど言い方は気を付けること?いい?」

「わ、わかりました・・・」

 その言葉を聞いて笑顔になったビッグディックが最後にこう言った。

「よろしい!二人とも握手して謝る!」

 二人は言葉通りに握手して謝った。さて、これで一件落着と思ったビッグディックが階段を登ろうとするとスナッチがこう言った。

「・・・まあ、これはこれとして。あんたが見た私の裸についてはどう決着をつけてくれるのかしら?言ったでしょ?あんたは“一度約束したことは曲げない”って」

「え・・・?」

 ビッグディックの顔を冷や汗が滝のように流れていく。そしてスナッチはこう言った。

「潰しはしないけど約束は守ってもらうわよ!“たまたま”!」

 その掛け声とともにビッグディックの股間が締め付けられる。階段にはビッグディックの悲鳴が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る