第九話:大怪盗ビッグディック、クイズに挑む

二人が長い階段を上るとそこはクイズ会場であった。

長く暗闇を走っていたせいか目がくらみ立ち尽くす二人。そしてそんな二人をよそに司会と思しき男の声が響いた。

『さーやってきました今夜のメインショー!怪盗ビッグディックと尾宮悟朗のクイズ対決だあ!』

「俺は“大”怪盗ビッグディックだ!間違えないでもらおうか!」

ビッグディックが脊髄反射的にこう答える。

そしてやっと目が慣れてきた二人はあたりを眺めて呆然とする。二人が立っているのは大きなホールの壇上であり、対面には一人の男が座っている。そして目の前の机にはホワイトボードと早押しのボタン。そのセットは対面の男にも同じものが与えられていた。

悟りは何とか状況を察しようと努力する。

『意味は分からないけど多分これは何かしらのクイズなのだろう・・・そして対面に座っているのは・・・私の兄だ。ということは多分私の兄が二人目の四天王なのだろう』

そんな悟りをよそにビッグディックはさっぱりわからないといった顔をしている。これはビッグディックが正常である。この状況を瞬時に飲み込める人は多分少ないだろう。

そこで司会が大声を張り上げる。

『さあ、この脱衣クイズの主人公たちにも登場してもらいましょう!こちらのお二人です』

『また脱衣?・・・芸がないわね・・・』

悟りがあきれていると会場の上からベールに包まれた二つの直方形の物体がロープにつるされて降りてくる。大きさは中に大人が一人入るには十分で、主人公というからには中に誰かが入っていることが推測された。

ただただ驚いているビッグディックをよそに悟りは観客席を見下ろす。明らかに年齢層は高めで先ほどのナイトクラブの正反対。いうなればおっさんと言える年齢の男性が多かった。女性は明らかにまばらで、中には缶ビールを片手に持っている人物もいる。

そしてその二つの直方体は3mほど上空で静止し、司会が声を張り上げる。

『では登場してもらいましょう!今回の主役はこのお二人です!』

スタッフの手によってベールが剥がされる。中は大方の予想通り檻であった。まずビッグディックの目には相手側の檻が飛び込んできた。その中には先ほど出会ったバージニアが入っていた。

そしてビッグディックは若干興奮した面持ちでこちら側の檻を見る。おそらく彼でも中の人物の予想は大体ついているのだろう。つまりこちら側の檻には・・・


赤い顔をしたDrスナッチが入っていた。


困惑する悟り。そしてスナッチを見つめるビッグディックに対しスナッチが檄を飛ばした。

「あんた!そこで見てないで助けなさいよ!なんか突然眠らされたと思ったら檻の中に入ってたんですけど!?なんかさっき脱衣とか聞こえたし・・・私絶対脱がないからね!」

そこで悟りがビッグディックに尋ねる。

「誰よこの女」

おっとお嬢さん!なんか昼ドラみたいになってますよ!

「この人は俺の相方、Drスナッチさ!このマグナムハンドとかを作ってくれたんだよ!」

「す、スナッチ・・・」

悟りはその名前を聞いてあきれていた。

『こちらの中までまともに名前で呼べる人がいない!』

それはさておき、スナッチがビッグディックに悟りについて尋ねる。

「誰よその女の子」

おっとこちらもですか!

「この子は悟りって言って、尾宮の娘だよ!知らなかった?」

スナッチは自分の記憶をあさった。

そういえば尾宮に娘がいることは把握していた。しかし住基ネットには登録されていたが、顔写真はどこにも出ていない。このご時世にそこまで隠しきることができるのだろうか?

それとも何か隠さないとやばい理由でもあるのだろうか?

そこまで考えて一番疑問に思ったのは・・・

「で、なんであんたがその女の子と一緒に動いてるわけ?なに?ロリコンだったの?」

「違うわ!何でそうなるんだよ!」

そこに悟りがピキッと音を立てた頭を抱えてこう言い返す。

「何がロリコンですか?あなたこそなんなんですか?こんな低身長の男の子と組むとか、ショタコンなんですか?そうなんですか?」

その言葉にスナッチが語気を強めて言い返す。

「誰がショタコンですって!私には私の理由があるの!なんでも恋愛感情で片づけないでくれる?それとも何?あんたその男に惚れてるの?」

悟りは小さな手を組んで言い返す。

「私にだって私なりの理由があるんです。それに自分で“なんでも恋愛感情で済ますな”とか言っときながら“惚れてるの?”ってなんですか?完全に自己矛盾ですよ、それ。それにあなたなんかいなくても私がお兄ちゃんを介護して何とかここまで来たんです!あなたの役目は終わりました。ぜひお引き取りください!」

果たしてこの二人の会話に入っていける人間がいるだろうか?いたら尊敬する。

「お兄ちゃん?あんたそいつの事お兄ちゃんなんて呼んでんの?あんたの本物のお兄ちゃんは最近まで彼女もいたことがなかった童貞真っ盛りでしょ?それにそいつについて言えば私がいなきゃこの城に侵入すらできなかったんだからね?私が作ったマグナムハンドがなきゃ城壁すら上れてないのよ?だから・・・」

なんとこの会話に割って入れる男がいた!その男の名は・・・

「まあまあ、二人とも仲良くしてよ!俺を取り合ったって何にも出ないよ!」

そう、ビッグディックである。

「「取り合ってはない!」」

二人のきれいなハモリが会場に響く。この二人は案外仲がいいのかもしれない。

「「あんたは黙ってて!」」

はい・・・。

閑話休題。

それを見た観衆のおっさんたちのやじも飛び交い会場はかなりの盛り上がりを見せた。司会も予想外だったのか呆然としてマイクが拾う雑音だけがスピーカーから聞こえてくる。

その三人を見て慌てるのは相手も同じであった。・・・というより突然の童貞暴露が堪えたのか相手の回答者は顔を赤らめてうつむいている。

しかし相手側のバージニアは落ち着いていた。相変わらず口げんかをつづける二人に声を投げかける。

「ちょっとお嬢さんたち!痴話げんかはいいけど司会が困ってるでしょ?二人ともまだまだ子供ねえ・・・。いいからルールを聞きなさいな」

若干むっとした二人は精一杯声を潜めて相談する。

「ねえ、悟り。この話し合いの続きはあいつを黙らせてからにしない?」

「オッケーです!蹴散らしてやりましょう」

そして二人は突然笑顔になるとバージニアに向かってこう言った。

「「解決しましたー」」

悟朗とビッグディックは二人とも心の中は同じだった。

『『女って怖い』』

そして司会が恐る恐ると言った感じで二人に問いかける。

『・・・あの、大丈夫でしょうか?』

それにも二人は満面の笑みで答えた。それはもう怖いほどに・・・。

「「大丈夫でーす!」」

二人の満面の笑みに押され司会が本来の役割を果たし始める。

『で、では解説いたします。この脱衣クイズは回答者が表示された問題に答え正解したほうにポイントが入るというわけではありません!間違えたほうの相方となる現在つるされている女性の服が一枚はじけ飛びます!そして全裸になったから負けというわけではなく、どちらかがギブアップするまで続きます。また、相方が脱ぎたくない場合回答者の判断で頭上に金盥を落とすという選択肢を取れます。その場合服を一枚脱ぐことは免除です』

それを聞いていたスナッチはもう一度ルールを確認する。

「私に拒否権はあるの?」

『ありません。自分から脱ぐことはできますが、脱ぐことを拒否することはできません』

「・・・・」

スナッチは黙って首を振る。果たしてどんな仕組みで服がはじけ飛ぶのかはわからないが女性にとってこれほどの恐怖はないだろう。それを聞いた悟りは心の中でほくそえんでいた。

一方バージニアと悟朗は親密な関係をこれでもかとアピールしてくる。

「ねえ悟朗・・・これで勝ったらあとでいいことしましょ?」

「いいこと・・・?もしかしてそれって!ついに、ついにできるんですか!?」

「ふふ・・・それは勝ってからのお・楽・し・み」

悟朗は血走った目でビッグディックチームをにらみつける。それを見せつけられた三人の反応はそれぞれだった。

悟りは、

「やっぱりあの女はクソビッチでしたね。死ねばいいのに」

スナッチは、

「何あの女・・・私よりスタイルいいんですけど・・・」

ビッグディックは、

「いいなあ・・・」

と場違いなことを思っていた。そしてビッグディックは回答席に座ると準備を始めた。そして司会の男の声が鳴り響く。


第一問!


次回に続く。

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