第八話:大怪盗ビッグディック、精霊に出会う

 階段を駆る音が響いていた。

 その音の主はむろん悟りとビッグディック。二人の足音は時に力強く、時にばらばらと不規則に響いていた。ちなみに歩幅はビッグディックのほうが小さく、一段飛ばしでぎりぎり上がれる悟りのほうが早かった。そんなビッグディックを見かねて悟りが声をかける。

「どうしたのお兄ちゃん!ほらもっと早く!」

 ビッグディックは困ったようにこう言った。

「悟りちゃん・・・ちょっと早いよ!もうちょっとだけ遅く・・・」

 甘えたような声色である。それを一瞥して悟りが答えた。

「甘えないの。小学五年生に」

 ごもっともでございます。その声でやっと自我を取り戻したビッグディックは悟りに必死で食らいつく。すると後ろから仙人のような笑い声が聞こえた。フォフォフォフォフォ。と含みを持って笑うその声が頭の中に響くように聞こえていた。

『スナッチか?』

 とビッグディックは思ったがそんなことはなかった。声色からして明らかに男である。それも老人の声。周りを見渡しても誰もいない。そして足を止めた彼に対して悟りがあきれたように声をかける。

「もうお兄ちゃん置いて行っちゃうよ・・・」

 と言いながら振り向く悟り。その顔はだんだんと強張っていき、先ほどの言葉までで停止する。そしてこう叫んだ。

「誰!その人!」

 そしてビッグディックも間の抜けた顔で振り向いた。そこには・・・。

 像のお面をつけ、二―ソックスを履き、それ以外は裸のおじいさんが胡坐をかいて浮いていた。

 正直読者諸君は状況がわからないと思う。俺もわからない。

 ビッグディックはこれといった反応はしない。この程度の事はすでに見慣れている。がしかし、悟りは明らかにうろたえていた。現在フリチンで階段を上っているビッグディックは気にも留めないが、おじいさんに対しては明らかに驚いている。

 ビッグディックと比べてなんかこう・・・立派だったのである。

 何がとは言わない。

 悟りとしてもそんなものは見たことがなかった。そんな彼らをよそにおじいさんが口を開いた。

「お二人ともどうやってこの城に入った?」

 それにビッグディックが答える。

「え、えーっと・・・裏口からです・・・たぶん・・・はい・・・」

 それを聞いてフムフムと頷く老人。そしてこう続けた。

「落とし穴には落ちたか?」

「え、ええまあ・・・」

 それに悟りがびっくりする。まるで見られたくないものを見られたかのようなそんな顔をした。そんな悟りをよそに老人は続ける。

「わしはこのトリコ・チンコール城がブスガイド諸島にあるころから住み着いておる精霊だ。わしは今のこの城を気に入ってはおらん。かつては終の棲家だと思っておったのだがそうもいかなくなってしまった。そしてお主は盗人だとか?」

「は、はい・・・」

 さすがのビッグディックも気圧されている。というより二人のフリチンの男が向かい合い何やらまじめな話をする。その光景が妙に奇妙で、おかしくもあった。

「お主を見込んでこの城の秘宝を一つ渡してやろうと思う」

「はい?」

 ビッグディックは驚いて月並みな返事しかできなかった。悟りは閉口して何も言わなくなる。「ほんとにいただけるんですか!」

「ああ、もちろんじゃ!」

 精霊はそう言って股間をごそごそしだした。そしてぱきっと言わせて取り外すとビッグディックに差し出した。・・・ま、要するに大事なものを折って渡したのである。

 悟りはびっくりして目を丸くする。

『あれ取り外せたの?』

 そう思ったのもつかの間新しいモノが生えてきた。

『・・・何なのよこのおじいちゃんは』

 悟りさんの至極真っ当なご意見は置いておいて、とりあえずビッグディックはそれを受け取った。ふにゃふにゃで柔らかいそれは材質は石、手触りはシリコンという非常にまれなものであった。

「これは何なんですか?」

「見ればわかるじゃろう?大事なモノじゃ。さらに言えば、この城で重要な役割を持っておる」

「なるほど、たしかに大事だ・・・。してその重要な役割というのは?」

「わかるじゃろう?男のモノの役割など一つしかない。」

「なるほど・・・」

 ビッグディックはこれは秘宝なんだと思い納得した。

 そこに悟りが心の中で突っ込みを入れる。

『え、納得しちゃうの?』

 そして老人はさらに口を開いた。

「それと君は何も履いてないじゃないか?そのままだとみっともないじゃろうからズボンをやろう」

『あんたが言うなよぉ・・・』

 悟りの心からの叫びだった。

 そしてビッグディックの股間にズボンが現れる。そのズボンは大きなクマのアップリケが付いた半ズボンであった。明らかに子供向けだがビッグディックはこれに満足し、お礼を言った。

「ありがとね、精霊さん。必ず秘宝を手に入れてみせるから!」

「おお!実に頼もしい男だ!気に入ったぞ!」

『似た者同士はひかれあうのね・・・』

 と悟りは思った。

「それとそこの女子よ!」

 突然のご指名にびっくりした悟りは「は、はい」と虚を突かれた声を上げ、その姿を見た精霊は少し微笑むとこう言った。

「よい男に出会ったな」

 悟りは素直に「ありがとうございます」と言ってビッグディックをせかして出発した。精霊はその姿を見送りこうつぶやいた。

「彼女には幸せになってほしいな」

 二人の姿が見えなくなったところでその精霊は跡形もなく消え去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る